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札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)4号 判決 1985年6月25日

《住所省略》

控訴人 北海道教育委員会

右代表者委員長 安藤鉄夫

右訴訟代理人弁護士 山根喬

同 上口利男

同 池田雄亮

右指定代理人 梅川三代治

<ほか四名>

被控訴人ら 亡大野直司訴訟承継人 大野幸子

<ほか四五八三名>

被控訴人ら訴訟代理人弁護士 彦坂敏尚

同 尾山宏

同 南山富吉

同 林信一

同 高橋清一

同 森川金寿

同 佐伯静治

同 戸田謙

同 芦田浩志

同 新井章

同 柳沼八郎

同 重松蕃

同 立木豊地

同 北野昭式

同 鹿野琢見

亡大野直司訴訟承継人ら訴訟代理人弁護士 佐藤義雄

同 後藤徹

被控訴人池端清一訴訟代理人弁護士 門井節夫

主文

一  原判決中、別紙二の(一)、(二)記載の被控訴人らを除く別紙一記載の被控訴人らに関する部分をいずれも取り消す。

二  前項の被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  控訴人の本件控訴中、別紙二の(一)、(二)記載の被控訴人らに関する部分を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、控訴人と別紙二の(一)、(二)記載の被控訴人らとの間に生じた分は控訴人の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間に生じた分は右被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

(被控訴人ら主張の請求原因)

一  当事者

1(一) 被控訴人ら(なお、以下「被控訴人ら」と称するとき、訴訟承継前の被控訴人亡大野直司の関係では、同大野直司を指す場合又は同大野直司の訴訟承継人らを指す場合がそれぞれある。)は後記各懲戒処分の当時原判決添付原告一覧表(一)、(二)(別紙三参照、以下同じ。)記載の各学校に勤務する地方公務員であって、それぞれ日本教職員組合(以下「日教組」という。)に加盟している北海道教職員組合(以下「北教組」という。)の組合員である。

(二) なお、訴訟承継前の被控訴人亡大野直司は昭和五六年一一月一七日死亡し、相続により別紙二の(二)記載の当事者番号1の1ないし5の被控訴人らがその地位を承継した。

2 控訴人は被控訴人らの任命権者である。

二  本件各懲戒処分

1 控訴人は被控訴人らに対し、原判決添付原告処分一覧表(一)、(二)(別紙三参照、以下同じ。)の各処分欄に記載のとおり各懲戒処分を行った(以下「本件各懲戒処分」という。)。

2 本件各懲戒処分の理由とするところは、被控訴人らは、昭和四一年一〇月二一日、同四二年一〇月二六日、同四三年一〇月八日(右原告処分一覧表(一)、(二)記載の該当する日)に一斉に勤務場所を離れて職場を放棄し、又はこれらの行為を企て、あるいはその実行を共謀し、そそのかし、あおったりしたというものであった。

三  本件各懲戒処分の違法

しかし、本件各懲戒処分はいずれも正当な理由なくしてなされた違法な処分である。

よって、被控訴人らは、本件各懲戒処分の各取消しを求める。

(請求原因に対する控訴人の認否)

一  請求原因第一項1(一)及び2の事実は認める。

二  同第二項の事実は認める。

(控訴人の主張)

一  被控訴人らによる争議行為の具体的内容

1 昭和四一年一〇月二一日の争議行為(以下「一〇・二一争議行為」という。)

原判決添付第一目録記載の被控訴人らは北教組の下、人事院勧告の完全実施とそのための地方財源の確保を重点目標として、日本公務員労働組合共闘会議(以下「公務員共闘」という。)、日教組のいわゆる一斉休暇闘争に参加するため、同年一〇月二一日一斉に年次有給休暇請求をした上、同目録記載のとおりその勤務場所を離脱し、その職務を放棄した。

2 昭和四二年一〇月二六日の争議行為(以下「一〇・二六争議行為」という。)

原判決添付第二目録記載の被控訴人らは、右同様の目的の下、同年一〇月二六日、一斉に年次有給休暇請求をした上、同目録記載のとおりその勤務場所を離脱し、その職務を放棄した。

3 昭和四三年一〇月八日の争議行為(以下「一〇・八争議行為」という。)

(一) 北教組に加入の教職員は、右同様の目的の下、同年一〇月八日、それぞれ早朝勤務一時間につき一斉に年次有給休暇請求をしてその職務を放棄した。

(二) ところで、かかる一〇・八争議行為に当たり、原判決添付第三目録(別紙三参照、以下同じ。)の一、二記載の被控訴人らは同記載のとおりいずれも北教組本部役員の地位にあって、左記の行為により、一〇・八争議行為の遂行につき指導的な役割を果たした。

(1) 昭和四三年四月二二日から三日間の日程で開催された北教組第五三回年次大会で決定した公務員共闘統一要求、日教組重点要求及び北教組独自要求などの実現のため、秋の重要時期に向けて、諸闘争との結合の中で幅広く力強い戦線を組織するとともに、公務員共闘の結束を固め、閣議決定時期には全国統一実力行使をもって闘うとの行動方針に基づき、同年七月二九日の北教組第六一回中央委員会において、

ア 日教組の指令に基づいて早朝勤務時間一時間カット(一〇時出勤、年次有給休暇請求権の行使による。)の市町村単位の要求貫徹集会を組織して闘う。なお、夜間定時制高校の組合員は当日勤務時間終了前一時間カットする。

イ この戦術と八月一〇日ころに予定の人事院勧告を受けての実力行使の目標については、北教組臨時大会(九月一四日)の意思集約に基づいて、日教組臨時大会(九月一八日、一九日)で最終決定を行う。

ウ 日教組臨時大会決定の目標・戦術について、直ちに批准投票を行い、これを集約して突入指令を確認する。

エ 支部・支会・分会に至るまでの闘争委員会を構成し、賃金闘争の成功のための推進を図る。

オ 全国統一闘争の前後に各ブロックごとに弾圧粉砕総決起集会を開催する。

との行動方針を決定した。

(2) 更に、同年九月三日の北教組第六回戦術会議において、北教組各支部の闘争体制について点検するとともに、一〇・八争議行為における行動や集会の態様について討議を重ねた。

(3) 同被控訴人らは同年九月一四日の第五四回北教組臨時大会において、

ア 公務員共闘の統一実力行使として、全組合員が一〇月八日早朝勤務時間一時間の休暇を取り、原則として市町村単位の要求貫徹集会を組織する。

イ 九月二五日を全員集会による批准投票日として設定し、九月二九日本部開票集計、三〇日日教組本部へ報告する。

ウ 一〇月一日の全国戦術会議、一〇月二日の全道戦術会議においてその結果を確認し、日教組中央闘争委員長が指令権を発動する。

エ 実力行使体制の確立のため、幹部・活動家を総動員してオルグ活動を徹底して行う。

などの一〇・八争議行為を実行するについての戦術を決定するとともに闘争宣言を発した。

(4) そして、同被控訴人らは同年一〇月二日第三九回中央闘争委員会を開き、同委員会において北教組書記長である被控訴人池端清一が一〇・八争議行為を実行する旨の提案をして、提案どおり各組合員に対し争議行為を実行せしめるよう指令することを決定した。

(5) 同日の第七回戦術会議において、同被控訴人らは、全国戦術会議の経過報告及び同会議において日教組中央執行委員長の発した一〇・八に最低一時間以上の実力行使に突入するとの争議行為突入指令の受理を確認し、更に訴訟承継前の被控訴人亡大野直司北教組中央執行委員長は同席した北教組各支部の代表者らに一〇・八争議行為を北教組第六一回中央委員会及び第五四回臨時大会の決定どおり実施するとの争議行為突入指令を発した。

(三) また、原判決添付第三目録の三記載の被控訴人らは一〇・八争議行為の当時同記載のとおり北教組支部役員の地位にあったところ、同被控訴人らは右争議行為突入指令を受け、各支部傘下の組合員に対し昭和四三年一〇月八日の出勤時から一時間にわたる同盟罷業を実行させるべく、右指令の趣旨を伝達するなどの行為を行ったものである。

二  本件各懲戒処分

1 以上の被控訴人らの休暇届提出による職務放棄は、外形上は有給休暇請求権の行使の形式を備えていても、労働基準法(以下「労基法」という。)三九条所定の効力を有しないものであって、原判決添付第一、第二目録記載の被控訴人らの前記所為は地方公務員法(以下「地公法」という。)三七条一項前段に、原判決添付第三目録記載の被控訴人らの前記所為は同項後段に該当する。

2 そこで、控訴人は同法二九条に基づき、原判決添付原告一覧表(一)、(二)記載の被控訴人らに対し、原判決添付原告処分一覧表(一)、(二)の各処分欄に記載のとおり本件各懲戒処分を行った。

その処分の基準としたところは、次のとおりである。

(一) 一〇・二一争議行為

(1) 右争議行為に参加したのみの者は原則として戒告

(2) 昭和四一年五月一三日に行われた北教組の統一行動(以下「五・一三統一行動」という。)に参加するため学校長の承認を得ないで勤務場所を離脱したことにより訓告、あるいは懲戒処分を受けたにもかかわらず、再び一〇・二一争議行為に参加した者は原則として停職一月

(3) 管理職の地位にありながら、一〇・二一争議行為に参加した者は停職三月

(4) ただし、これらの者のうち、事後に反省の情を示した者については、戒告に当たる者は訓告、停職一月に当たる者は減給六月

(二) 一〇・二六争議行為

(1) 右争議行為に参加したのみの者は原則として訓告

(2) 一〇・二一争議行為に参加して訓告若しくは戒告を受けたにもかかわらず再び一〇・二六争議行為に参加した者は戒告

(3) 一〇・二一争議行為に参加して減給以上の処分を受けたにもかかわらず、再び一〇・二六争議行為に参加した者は減給六月

(4) 管理職の地位にありながら、一〇・二六争議行為に参加した者は停職三月

(三) 一〇・八争議行為

(1) 北教組中央執行委員中、中央執行委員長、中央執行副委員長、書記長の三役は免職

(2) その余の中央執行委員は停職六月又は同三月

(3) 同組合支部役員は減給六月

三  本件各懲戒処分の適法性

1 地公法三七条一項の合憲性

(一) 地方公務員の労働基本権の制約原理

地方公務員についても地公法三七条一項によりすべての争議行為が禁止されているが、その根拠は、地方公務員が一般の勤労者とは異なり、憲法一五条に規定されているとおり全体の奉仕者として公務を遂行すべき特殊の地位にあることと、その職務の公共性にある。

地方公務員が職務を提供している地方公共団体は、地方住民の厳粛な信託により、その行政を行うものであって、その権威は地方住民に由来し、その権力は地方住民の代表者がこれを行使し、その福祉は地方住民がこれを享受するものである。

したがって、地方公共団体は地方住民の信託にこたえ、地方住民の福祉のためにその行政を遂行する憲法上の責務があるものといわなければならない。

しかして、このような責務を遂行する上において特に必要なことは、地方公共団体が地方住民全体のためにその行政事務を停滞することなく続けていくことである。地方公共団体は、その機関である地方公務員を通じてのみ、その行政事務を遂行するのであるから、地方公務員が争議行為をなし、集団的に自己の提供する職務を停止すれば、これがため、地方公共団体の事務が一時的にせよ停廃し、地方住民全体の信託と福祉に反することになり、これにより地方公共団体は、前述のごとき地方住民に対し負担している重大な責務を懈怠することになるのである。

そして、このような地方公共団体の地方住民に対する責務懈怠は、地方公務員の争議行為に基づくものであるから、地方住民全体と地方公共団体と地方公務員との三者間に存する憲法上の三重構造よりして、地方公務員は、単に任命権者である地方公共団体の長等に対してのみではなく、真の使用者である地方住民全体に対し、自己の提供する職務を停止して、地方公共団体の行政事務を停滞させることのないようにする義務があり、しかも、この義務は、道徳上の義務にとどまらず、憲法上の義務であると解すべきである。

(二) 地方公務員の勤務条件決定の特殊性

私企業においては、労働基本権の完全な保障を受ける労働者とこれに対し経済的対抗手段を持つ使用者が実質的に平等の立場に立ち、自主的に賃金その他の労働条件を決定する。しかし、公務員にあっては、給与その他の勤務条件は、労使間の労働協約によって定められるものではなく、国民又は地方住民によって民主政治のルールに従い選出された議員で構成する国会又は地方議会の制定する法律又は条例により定められる。公務員が勤務条件について当局と交渉するにしても、その意味は、私企業におけるような、労働協約の締結を主たる目的とする団体交渉とは全く異なるのである。私企業における団体交渉は、両当事者間の労働力の自由な経済取引に帰するのであるが、公務員においては、むしろ国会若しくは地方議会への働きかけ、すなわち一種の政治活動を展開するよう要請することであって、もはや単なる経済問題ではあり得ない。公務員の職員団体の争議行為は、目的を勤務条件の維持改善におく場合であっても、その決定プロセスは必然的に政治であり、立法である。

また、私企業の労使間の団体交渉は、結局は、私企業の得た利潤の分配に帰するといえる。これに対し、公務員の要求するところは、経済活動によって得られた利潤の分配ではなく、国若しくは地方公共団体が公権力をもって徴収した租税の配分に関するものである。一方、国政又は地方政治のいかなる部類に租税収入のいかなる割合を投入するかは、正に政治問題である。租税収入のいかなる割合を公務員の給与に充てるかは、勤労者たる公務員の生活問題、経済問題であると同時に、政治問題である。そこでもはや、労働者の要求が利潤という総枠によって制約されることもなく、公務員の要求がいかに過大であっても、これを制約する経済的な最後の一線といった歯止めは存在しないのである。

更に、争議権は、これを保障することにより、労使間の力の均衡ある「自由な取引」を行わせ、それによって適正な労働条件を実現させようとするものである。

ところが、国、地方公共団体は、その性質上、営利を目的とする一般私企業の場合のように、営利目的に照らして、任意に解散したり、事業を廃止することは許されず、それに伴う損失を被るおそれのない公務員には、そのおそれによる自制作用は期待できないので、公務員の場合、他の基本的人権との調整を図る上で、法により争議行為が制限されることは当然是認されるべきなのである。

(三) 地方公務員の労働基本権と争議行為禁止の代償措置

(1) 現行地方公務員制度の下における労働基本権

ア まず団結権の保障についていえば、地方公務員たる職員は勤務条件の維持改善を図ることを目的として職員団体又は連合体を組織することができる(地公法五二条一項)。しかも、主たる構成員が職員であれば足り、一部非職員を構成員としても差し支えないものとされている。

地公法五二条三項ただし書によれば、職員団体はその構成員の範囲を職員のみに限定しないことを前提としながら、管理職員等の職員とそれ以外の職員とは同一の職員団体を組織することができず、両者をもって組織される団体は職員団体ではないとされる。当局の利害を代表する者が組織内に混在する団体は、職員の利益を正当に代表する条件を欠いていると考えられるからである。

地公法五二条四項は管理職員等の範囲は人事委員会規則又は公平委員会規則で定めるものとしている。

地公法五三条は職員団体の登録に関して定めている。

職員団体が登録を受けるか否かは自由である。登録の有無にかかわらず、交渉を行うことができる。登録を受けた職員団体は法人格を取得でき(同法五四条)、在籍専従職員を置くことが認められる(同法五五条の二第一項ただし書)。また、登録団体から適法な交渉の申入れがあったときは、地方公共団体の当局をしてその申入れに応ずる地位に立たせること(同法五五条一項)の利益が生ずるのである。

地公法五五条の二第一項本文によれば、職員が在職のまま職員団体、労働組合の業務に専従することは原則として禁止されている。この在籍専従制度は、全体の奉仕者として地方公務員が負う職務専念義務(同法三五条)に背反するものであるからである。しかしながら、地公法は、職員団体を結成し、これに加入する自由を持ち、職員団体を自主的に運営することを認めているのであるから、更にその団結権保障の目的で、職員団体の合法的活動に支障なからしめるため在籍専従制度を設けているのである(同法五五条の二第一項ただし書)。

この在籍専従制度のほか、条例によって職員団体の活動のための休暇「組合休暇」が認められている。

このように、地方公務員の団結権は憲法の要請にこたえて実定法上保障されているものである。

イ 次に、団体交渉権についていえば、当局は、登録された職員団体から職員の給与、勤務時間その他の勤務条件及びこれに付帯した一定の事項に関し、交渉の申入れを受けた場合にはこれに応ずべき地位に立たされる。

職員団体は、私企業におけるように労働協約を締結することは認められないとしても、当局に対し、原則として交渉に応ずべきことを求めることができ、職員団体と当局との交渉において、両者の意思が合致した場合には、法令、条例、規則及び規程に抵触しない限り、書面による協定を結ぶことができる。

以上のとおり地方公務員は、その交渉権が実定法上保障されているのである。ただ、私企業における労働者のごとく、業務の正常な運営を阻害する争議行為を武器として用い、使用者との交渉を有利に導くことのできる団体交渉、その結果としての労働協約の締結が認められないとされているのである。

(2) 争議行為の禁止と代償措置

このように、私企業における労働者の場合と異なり、地方公務員については、争議行為が禁止されているが、その反面、人事(公平)委員会制度のほか、法制上特別の保護措置が講じられているのである。すなわち、地方公務員にあっては法定事由がなければ解雇されないものとして身分の保障を法定し(地公法二七条二項、三項)、給与、勤務時間その他の勤務条件は地方議会の立法である条例によって法定され(同法二四条六項)、任命権者が不利益に変更することは許されない建前となっており、重要な法益はすべて法令によって保障されているのである。地方公共団体は、勤務条件が社会一般の情勢に適応するように随時適当な措置を講じなければならず(同法一四条)、人事委員会は勤務条件について絶えず研究を行い、その成果を地方公共団体の議会若しくは長又は、任命権者に提出する権限が認められ(同法八条一項二号)、更にまた、職員は勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が取られるべきことを要求することができることとされ(同法四六条、四七条、四八条)、あるいはまた、もし職員が不利益処分を受けたとき人事委員会又は公平委員会に対して不服申立てをする途も開かれている(同法四九条の二)のである。

かくして、地方公務員につき、労働基本権を制限するに当たっても、法は国民全体の共同利益を維持増進することとの均衡を考慮しつつ、その制限を最小限度にとどめようとしており、また、地方公務員は労働基本権に対する制限の代償として制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているということができるのである。

(四) 結論

以上述べたように地方公務員の従事する職務には公共性がある一方、法律によりその主要な勤務条件が定められ、身分が保障されているほか、適切な代償措置が講じられているのであるから、地公法三七条一項がかかる地方公務員の争議行為を全面的かつ一律に禁止するのは、勤労者を含めた国民、住民全体の共同利益の見地から、やむを得ない制約というべきであって、憲法二八条に違反するものではない。

2 本件各懲戒処分と懲戒権者の裁量権

公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために行われるものであって、控訴人は被控訴人らが行った法令違反の事実に対し、任命権者として公務員秩序維持の観点から処分を慎重に検討し、諸般の事情を考慮し本件各懲戒処分を行ったものである。地方公務員につき、地公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選択するかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。したがって、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきであり、懲戒権の行使については任命権者に極めて広い裁量権が与えられているのである。

本件各懲戒処分は、前述のような本件各争議行為の背景と被控訴人らの行為を精査して地公法に基づき慎重に審査の上なされたものであるから、適法かつ妥当なものである。

(控訴人の主張に対する被控訴人らの認否、反論)

一1  控訴人の主張一の事実は認める。

2  同主張二1の主張は争い、同2の事実中控訴人が被控訴人らに対し本件各懲戒処分を行ったことは認める。

ただし、被処分者数は次のとおりである。

(一) 一〇・二一争議行為

被処分者二七八四人(うち停職三月三人、同一月一八二人、減給六月一九一人、戒告二四〇八人)

(二) 一〇・二六争議行為

被処分者四〇八一人(うち停職三月三人、減給六月一七八人、戒告三九〇〇人)

(三) 一〇・八争議行為

被処分者 控訴人の主張のとおり七一人(うち免職三人、停職六月六人、同三月七人、減給六月五五人)

3  同主張三は争う。

二  本件各争議行為に至る経緯

1 教員の処遇

学校教育の本質は児童、生徒の成長発達を促進させることにあり、教育活動は干渉されてはならないし、右活動を効果的に進めるためには教員は常に自発的、自主的な学習の研究、教員相互の自由な研究討議、共同研究ができるよう保障されなければならない。しかしながら、現実には教員に対し長時間にわたる無定量の労働時間が要求されており、また、当時その賃金水準は民間労働者に比較して非常に低く(昭和三九年当時三九才、一七年七か月間勤務の小学校教員と人口五万以上の勤労者世帯の平均を比べてみると、エンゲル係数では前者が四五・五パーセントであるのに対し、後者は三五・七パーセント、支出被服費では前者が三八九三円であるのに対し、後者は五七一九円である。)、このような低賃金が全教員の生活に与える影響は大きいものがあった。

2 人事院勧告実施と賃金闘争

(一) 人事院勧告

昭和二〇年制定の労働組合法の下では官公労働者も差別なく労働基本権が保障されていたが、その後公務員関係法規の制定によって、官公労働者は争議権を奪われ、その代償措置として人事院、人事委員会及び公平委員会が設置された。しかし、人事院等は設置当初から公務員労働者の要求を無視した低い勧告をし続け、昭和二九年から同三四年までは物価上昇にもかかわらず基本賃金増額の勧告をせず、争議権制限の代償措置たる機能を果たさなかった。同三五年に公務員共闘が結成され、同共闘は、同年度を第一次とし、以後毎年賃金闘争をするに至っている。しかして、同三五年から同四〇年まで、人事院勧告はなされたものの右勧告額は低額であるばかりでなく、しかも、毎年実施時期が勧告どおり実現されたことはなかった。

(二) 一〇・二一争議行為

昭和四一年三月公務員共闘は基本賃金一律七〇〇〇円の引上げ等の要求をした。人事院は同年八月一二日国家公務員の給与について六パーセント、平均二四四〇円の増額、同年五月一日実施を政府に勧告したが、政府は同年九月一日実施を決定した。

ところで、地方公務員の場合は人事委員会又は公平委員会が給与改訂勧告を当該地方自治体の長等宛に出すことになっているが、同委員会は人事院勧告の内容をそのまま同委員会の勧告として出すため、人事院勧告と勧告実施に対する政府の方針は地方公務員にもそのまま反映され、事実上適用されることになっている。

そのため、北教組は、人事院勧告の実施時期の完全実施と地方財源の完全確保を重点目標において実力行使をするという公務員共闘、日教組の休暇闘争方針に基づいて同年九月一六日、一七日七〇・三八パーセントの賛成により職務放棄をすることを決め、三五パーセントの組合員がこれに参加した。

(三) 一〇・二六争議行為

昭和四二年度にも、公務員共闘は同年三月基本賃金一律八〇〇〇円の引上げ等を要求していたが、人事院は同年八月一五日に七・九パーセント、平均三五二〇円増額、同年五月一日実施の勧告をした。しかし、政府は同年一〇月二〇日に同年八月一日から勧告を実施することを決めた。日教組は七三パーセントの賛成、北教組は同年九月二二日、二三日六三パーセントの賛成を得て前年同様実力行使をすることを決め、北教組はその五一・六三パーセントの組合員がこれに参加した。

(四) 一〇・八争議行為

昭和四三年度にも、公務員共闘は基本賃金一律一万円以上の引上げ等を要求していたが、人事院は同年八月一六日本俸諸手当八パーセント、平均三九七三円増額、同年五月一日実施とする勧告をした。しかし、政府は同月三〇日、給与は同年八月一日から、通勤手当は同年五月一日から、各実施することを決めた。そのため、北教組は前同様公務員共闘、日教組の方針に従い、実力行使を決め、その六四・五パーセントの組合員がこれに参加した。

(五) その後の経緯

右のような闘争を昭和四四年まで続け、政府はようやく同四五年から人事院勧告を内容、実施時期共にそのとおり実施するに至り、人事院勧告の完全実施をめぐる闘争は一段落するに至った。

三  本件各懲戒処分の違憲性、違法性

1 地公法三七条一項は憲法二八条に違反する。

(一) 憲法二八条の保障する労働基本権は公務員も含め、労働者が人たるに値する生活を維持するための生存権に直結した権利であり、中でも争議権は労働三権の要の地位にある。したがって、争議権が制限、特に争議行為が禁止されるのは、右行為が生命、身体の安全、健康にかかわる国民の利益に直ちに重大な支障をもたらす危険が明白かつ現実に存し、右危険を防止するために禁止以外の他の制限手段では避けられない場合に限定されると解すべきである。

ところが、地公法三七条一項は地方公務員のすべての争議行為を全面一律に禁止している。しかし、地方公務員の職務内容は極めて多種多様である。かかる職務の多様性や公共性の強弱を顧慮することなく、すべての地方公務員について一切の争議行為を一律に禁止することは必要やむを得ない限度を超えたものとして、憲法二八条に違反する。

(二)(1) 地方公務員につき争議行為を制限するためには、争議行為を制限することがやむを得ない場合で、かつその制限が必要最小限度のものであるだけでなく、更に生存権に直結する争議権の制限に見合う適切な代償措置を設け、かつ、その代償措置が十分に機能していることが必要不可欠であって、これなくして、地公法三七条一項が地方公務員の争議行為を禁止することは憲法二八条に違反するものである。

ア 代償措置たるための要件

争議行為を禁止するにふさわしい代償措置と評価されるための要件につき、ILO結社の自由委員会は、①完全に公平な第三者的機関の実質を保ち、かつ、②その機関の調停、仲裁手続に労働者も当事者として参加することができ、また、③裁定結果が使用者、労働者の双方当事者に対して拘束力を有する内容を備えたものでなければならないという三つの基準を定立しており、これは国際的水準として確立したものであって、わが国においても定着した代償措置の評価基準である。

イ 人事院、人事委員会、公平委員会の仕組みと問題点

(ア) 「人勧体制」の仕組み

a 昭和二三年一二月三日施行の改正国家公務員法(以下「国公法」という。)は内閣の所轄下に、給与その他の勤務条件の改善等に関する事務をつかさどる(国公法三条二項)人事院を設置した。その人事院は人事官三人をもって組織され(同法四条一項)、必要な調査研究を行い、職階制に適合した給与準則を立案し、これを国会及び内閣に提出し(同法六三条二項)、給与準則の改訂も同様に行い(同法六七条)、また、俸給表は生活費、民間における賃金その他人事院の決定する適当な事情を考慮して定められ(同法六四条二項)、人事院は毎年少なくとも一回、右の俸給表が適当であるかどうかについて国会及び内閣に同時に報告しなければならず、給与を決定する諸条件の変化により俸給表に定める給与を一〇〇分の五以上増減する必要が生じたと認められるときは、人事院は、その報告に併せて国会及び内閣に適当な勧告をしなければならない(同法二八条二項)とされている。

b 地公法は、給与、勤務時間その他の勤務条件等について絶えず研究を行い、その成果を地方公共団体の議会若しくは長又は任命権者に提出する(地公法八条一項二号)人事委員会を都道府県及び指定都市に設置することとし(同法七条一項、なお、人口一五万以上の市では人事委員会を任意に設置(同法七条二項)、それ以外の地方自治体は公平委員会を設置(同法七条三項))、その人事委員会は、三人の委員をもって組織され(同法九条一項)、毎年少なくとも一回、給料表が適当であるかどうかについて、地方公共団体の議会及び長に同時に報告し、また、給与を決定する諸条件の変化により、給料表に定める給料額を増減することが適当であると認めるときは、併せて適当な勧告をすることができる(同法二六条)。公平委員会は三人の委員をもって組織され(同法九条一項)、職員の給与、勤務時間その他の条件に関する措置の要求を審査し、判定し、及び必要な措置を執ること(同法八条二項一号)を行うが、給料表に関する勧告の権限は与えられていない。ところで、職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならない(同法二四条三項)とされており、国家公務員等の賃金を考慮して定められる仕組みとなっている。教員については、教育公務員特例法二五条の五第一項により当分の間、国立学校の教育公務員給与の種類及びその額を基準として定めることとされている。

(イ) 「人勧体制」の機能と問題点

a 構成上の問題

人事院の人事官(三人)の任命については、国公法五条によれば、人事官は両議院の同意を経て内閣が任命し(国公法五条一項)、人事官につき任命の日以前五年間に政治的影響力をもつ政党員であったり、一定の公選の候補者となった者は除外され(同条四項)、また、人事官につき同一政党に所属する者又は同一の大学学部の卒業者が二人以上あってはならない(同条五項)こと等が定められている。

人事委員会及び公平委員会の委員(三人)の選任については、地公法九条によれば、委員は議会の同意を得て地方公共団体の長が選任し(地公法九条二項)、委員につき同一政党の所属者が二人以上あってはならない(同条四項)こと等が定められている。

しかし、人事官の任命及び委員の選任が基本的に使用者たる内閣又は地方公共団体の長にゆだねられていること自体、極めて問題であり、公務員労働者側の意向や意見が右選任について全く反映されないことは、公平を確保する上で極めて不十分といわざるを得ない。

b 当事者として参加する余地はない。

先に「人勧体制の仕組み」において述べたところから明らかなとおり、公務員組合がその労働条件の決定過程に、当事者として参加する制度的保障は全くない。

c 勧告の非義務性、非拘束性

先に述べたとおり、人事院については俸給表に定める給与を一〇〇分の五以上増減する必要が生じたと認められる時は、勧告をなすことが義務づけられている(国公法二八条二項)が、人事委員会についてはいかなる条件の変化があったとしても地公法上勧告をなすことが義務づけられてはいない。したがって、勧告を全く行わないこともできるようになっているのである。公平委員会にあっては、給料表に関して勧告の権限をさえ与えられていない。

また、人事院勧告にしても人事委員会又は公平委員会の勧告にしても国ないし地方公共団体を拘束する力は有していない。

d 右のとおり人事院、人事委員会及び公平委員会の勧告制度は、極めて不完全かつ不十分にしか機能を果たせないようになっており、人事院、人事委員会及び公平委員会の各制度は、いずれも先に定立したa第三者機関としての公平性、b当事者の参加及びc当事者双方に対する拘束力のいずれの要件をも充足していないものである。

現に、右勧告に拘束力がないために、別紙四記載の「人事院勧告と給与改訂の実施状況」のとおり、人事院勧告はしばしば政府によって無視され、あるいは給与引上げ額や実施時期が値切られてきた。

(2) したがって、右制度は争議権制限の代償措置としての要件を具備していないのであって、かかる条件下において、地公法三七条一項が地方公務員につき全面一律に争議行為を禁止することは明らかに憲法二八条に違反するものである。

2(一) 仮に地公法三七条一項が合憲だとしても、少なくとも教員の争議行為について地公法三七条一項を適用することは憲法二八条に違反する。

(1) 争議権を制限し得るのは、先に述べたとおり、国民の日常生活にとって真に必要不可欠で、その職務の停廃が生命、身体の安全、健康にかかわる国民の利益に重大な侵害をもたらすおそれのある職務について認められ、特に争議行為の禁止については、職務の一時的停廃によって直ちに国民の生命、身体の安全と健康に危険をもたらすおそれがあり、かつ、禁止以外の他の制限、方法ではそのおそれを避けることができない場合に限られるところ、教員の争議行為についてはかかる事態は生じ得ないものである。すなわち、

ア 学校教育上作成される教育計画は学期当初から余裕をもって作成され、長期的展望をもって児童、生徒の環境、心身の発達等の諸条件に応じ、可変性、柔軟性を持って弾力的に運用されており、変更された計画は時間割の変更、授業計画の修正によって十分に補完されていくのである。したがって、学校行事等で教育計画の一時的停廃は常に起り得るが、これらの事態についても十分補完しているのであって、仮に教員の争議行為により一時的停廃が生じたとしても同様補完し得るものである。争議行為が長引くことに対しては緊急調整、予告、あっせん制度を置けば十分である。

しかも、学校教育は、国民がその日常生活を維持していく上で必要不可欠のものといえないのであり、仮に教員の争議行為による学校における教育活動の一時的中断が生じたとしても、それは国民の生命、身体の安全と健康にとって重大な利益の侵害をもたらすおそれはないのである。

イ かえって、国家、社会の形成者、担い手を育てる教員にとって、労働基本権、特に争議権の保障は、憲法の理念に沿った教育を実践する上で不可欠のものであって、教員が右理念を体現することなくしては、児童、生徒に対し、基本的人権について正しい教育をすることはできないし、生活と教育との結合、児童、生徒に対する全人格的影響という視点から、組合民主主義を通して正当な要求の実現を求めるという教員の行動は、むしろ教育的価値をさえ、持つものであり、教員の生活条件、勤務条件は教育の条件と密接不可分に関連し教育の充実・向上と結びついている。

(2) そして、教員の争議権を制限することができないことはILO・ユネスコの「教師の地位に関する勧告」を始めとする公務員労働者の争議権の保障についての国際水準からも肯認し得るところである。

(二) したがって、少なくとも教員による争議行為につき地公法三七条一項を適用することは憲法二八条に違反するものというべきである。

3(一) 本件各争議行為は地公法三七条一項所定の争議行為に当たらないので、右争議行為に地公法三七条一項を適用することは憲法二八条に違反する。

(1) 仮に地公法三七条一項が地方公務員による争議行為を全面的かつ一律に禁じたことが合憲であるとしても、その合憲性は、労働基本権制限に見合う十分な代償措置が講じられているとともに、それが本来の機能を発揮していることを前提としているので、実際上、代償措置が本来の機能を発揮していない場合には違憲の状態が生じているというべきであり、その正常な運営を要求してなされる争議行為は、それが相当と認められる範囲を逸脱しない手段、態様であると認められる限り、憲法上許容されたものというべきであるから、右争議行為につき懲戒処分を行うことは憲法二八条に違反するものといわなければならない。

(2) そして、人事院、人事委員会及び公平委員会による勧告が完全に実施されない場合は代償措置が本来の機能を発揮しない場合に該当するというべきところ、本件各争議行為のなされた昭和四一年ないし同四三年当時には、政府によって人事院勧告が実施時期の点で完全に実施されていなかったのであるから、代償措置は正常に機能していなかったものといわねばならない。それゆえ、被控訴人らは、人事院勧告の完全実施という正当な目的、要求を掲げて本件各争議行為に参加等したものである。

(3) しかも、右の各争議行為の規模、態様は一時間ないし午後半日という極めて短時間の、しかも単純不作為の形態によるものであって、かつ、その争議行為の手段、方法も相当性を超えたものではない。

(4) そして、争議行為の児童、生徒等に与えた影響についても、右の各争議行為がごく短時間のものであったことのほかに、教育活動は本来可変性、柔軟性に富んでいるので、時間割の変更、授業計画の修正によって十分に補完し得るものであったので、その影響ほとんどなかったか、仮にあったとしても、ごく軽微なものにすぎなかったのである。

(5) 以上のように、本件各争議行為は、労働基本権制限の代償措置である人事院勧告が完全に実施されず(なお、政府が、人事院勧告の完全実施のために、誠実に法律上及び事実上可能な限りの努力を尽くしたにもかかわらず、これを完全に実施することができなかったという事情は全く存在しない。)、しかも、本件各争議行為は、早朝一時間ないし午後半日という極めて短時間の争議行為にすぎず、その手段、態様からみても相当性の範囲を逸脱したものとはいえないのである。

(二) したがって、本件各争議行為は、その目的、行動の正当性、規模、態様の相当性、更に影響の実態等からみて違法性がないか、あるいはその程度が極めて低いものであって、本件各争議行為についてまで地公法三七条一項が適用されるとなると、その解釈・適用は憲法二八条に違反するものというほかはない。

(被控訴人らの主張)

一  裁量権の濫用

本件各懲戒処分は懲戒権の範囲を逸脱し、あるいは処分権を濫用したもので違法であるので、いずれも取り消されるべきである。

懲戒処分を受けるか否かは、公務員にとって極めて重要な利害関係のある事項であるから、懲戒処分をすべきか否かの裁量はそれにふさわしい厳密さをもって行われるべきである。このことは、身分保障の原則が強く要請されるべき被控訴人ら教育公務員に特に当てはまることである。

しかして、本件各懲戒処分は、以下の1ないし4の点において懲戒権の範囲を逸脱し、あるいは処分権を濫用した違法があるので、いずれも取り消されるべきである。

1 特に公務員の争議行為に対し、懲戒処分を行うことは、労使紛争の一方当事者が他方当事者に対し、一方的に制裁を加えるという実質を持ち、この点での当局の不公正な行為が更に争議行為を誘発する場合もあり得るので、他の行政裁量以上に事案の特殊事情に十分配慮することが強く要請されるのであって、懲戒処分を行うか否かの裁量において、右特殊事情について配慮すべき義務を怠った場合、その処分は裁量権の範囲を逸脱し、違法となるのである。

しかして、本件において、

(一) 本件各争議行為は、地方公務員の給与の改善について密接かつ重要なかかわりを持つ人事院勧告の完全実施という極めて当然かつ最低限の要求を掲げたものである。

(二) 人事院の給与勧告制度は、公務員の争議権の剥奪に見合う代償措置の中心をなす制度であったにもかかわらず、政府は長年にわたって人事院の給与改訂勧告を無視し、これを実施する場合にも実施時期を守らず、不完全にしか実施してこなかったのであって、その制度は正常に機能せず、画餅に等しい状態にあった。

(三) 本件各争議行為に至るまでの間、公務員組合は、関係当局に対し組合員の苦しい生活実態を説明し、人事院勧告の完全実施を求め、切実な要請行動を続けてきたが、政府はその要請を無視し続けた。

(四) 校長会や教育委員会も、教職員の人事院勧告の完全実施を望んでいた。

(五) 本件各争議行為当時、衆議院・参議院両院の各内閣委員会も、毎年、人事院勧告の完全実施を要望する旨決議していた。

(六) 公共企業体等労働関係法(公労法)の適用を受けるいわゆる三公社の職員及び五現業の公務員(以下「三公社五現業の職員」という。)については、争議権剥奪の代償措置として設けられた公共企業体等労働委員会(公労委)の仲裁裁定が公共企業体等労働関係法適用労働組合協議会(公労協)に結集する組合の実力行使を背景に完全実施されて久しかった。

(七) 世論もこれらの特殊事情に理解を示し、本件各争議行為を誘発した政府・当局を非難しても、本件各争議行為に対する報復的処分を望んではいなかった。

との特殊事情があったのに、控訴人は右事情について配慮することなく、あえて本件各争議行為の参加者等に対し、戒告から免職に至る大量、かつ、苛酷な処分を行ったのであって、本件各懲戒処分は、処分権の範囲を逸脱したものとして、違法であるのでいずれも取り消されるべきである。

2 懲戒処分をするに当たって、平等原則違反を防ぎ、その恣意を排除するためにも、行政庁は内部的にしろ客観的に公平な「裁量基準」を定立する必要がある。

ところで、本件各懲戒処分の各処分基準について、控訴人は、控訴人の主張二2のとおり述べているところである。

しかしながら、右各処分基準は、以下のとおりその処分基準自体、又は各処分基準相互の比較検討により多くの疑問を抱かせるものである。

(一) 一〇・二一争議行為の処分に関し、控訴人の主張二2(一)(2)記載の処分基準によれば、五・一三統一行動の参加者に対する「累犯加重」については、控訴人が別紙二の(一)記載の被控訴人らにつき、右五・一三統一行動に参加したことを理由としてした懲戒処分自体は、既に北海道人事委員会により昭和五二年一〇月二六日、右処分の取消しを求める昭和四一年(不)第七〇号ないし第七三号、第七五号ないし第一一六号及び昭和四二年(不)第三八号ないし第五四号の事案において裁決ですべて取り消され、これを処分基準とすることの誤りが確定している。そして、右の誤りは一〇・二六争議行為の処分に関する控訴人の主張二2(二)(3)記載の処分基準にも影響するものである。

(二) 同じく参加者全員処分の方針に立ちながら、一〇・二一争議行為と一〇・二六争議行為とで、その処分基準も大きく変化している。

(1) 争議行為に参加しただけの者は一〇・二一争議行為では戒告であるのに対し、一〇・二六争議行為では訓告である。

(2) 五・一三統一行動に参加し、更に一〇・二一争議行為に参加した者は停職一月であったのに対し、一〇・二一争議行為に参加し、更に一〇・二六争議行為に参加した者は戒告である。

(3) しかも、一〇・二一争議行為で「累犯加重」により停職の処分を受けた者が、更に一〇・二六争議行為に参加したことにより「累犯加重」された結果は、減給六月である。

正に右の各「累犯加重」による処分は二重処分禁止の原則に反する不当なものである。

(三) また、一〇・二一、一〇・二六各争議行為の参加者のみの全員処分から一〇・八争議行為の幹部のみの処分への一貫性のない処分基準の変更は一見して明白である。

人事院勧告の完全実施という同一目的の、ほぼ同規模、同態様の連続する年の争議行為についての処分基準が毎回一貫性なく変動すること、特に昭和四二年から同四三年の処分基準の変動はその恣意性の徴憑として極めて重大であるといわざるを得ない。

以上のとおりであって、控訴人が本件各争議行為の処分に際し定立した基準はそれ自体不公正であるばかりか、各争議行為ごとに特別な事情もないのに処分基準を一貫性なく重大な点において変更したのであって、そのこと自体、裁量権の範囲の逸脱と評価されるので、本件各懲戒処分は違法としていずれも取り消されるべきである。

3 任命権者は、懲戒権の行使に当たって、争議行為の目的、時間的規模の長短、その影響や程度、争議行為発生に至る経緯やその原因、当該処分のもたらす影響などを十分考慮し、懲戒処分を行うべきか否か、懲戒処分を行うとしてどのような処分を行うかを判断すべきものであって、これらの点は本件各争議行為に伴う処分の際の裁量において考慮すべき事情(要考慮事項)であるといわねばならない。

したがって、控訴人が本件各懲戒処分を行うにつき、こうした点を考慮しなかったとすれば、裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、右処分は違法となるものといわなければならない。

この点、本件につき、本件各争議行為は、地方公務員の給与の改善について密接かつ重要なかかわりを持つ人事院勧告の完全実施という極めて当然かつ最低限の要求を掲げたものであること、しかも、当時毎年衆議院・参議院両院の各内閣委員会が人事院勧告の完全実施を要望する決議をしていたこと、それにもかかわらず、政府は右勧告の実施時期を値切るという不誠実な態度を頑にとり続けていたこと、本件各争議行為は要求の切実さに比べて極めて節度のある短時間のものであったこと、国民生活等への影響は極めて軽微であったことなどの重要な事情があった。

しかしながら、控訴人は、これらの事情を全く考慮せず、専ら本件各争議行為が地公法三七条一項に違反するという点のみを考慮して本件各懲戒処分を行ったものであるから、本件各懲戒処分は、その裁量の過程において、要考慮事項を考慮しなかった違法があるといわざるを得ないので、いずれも取り消されるべきである。

4 本件において、本件各争議行為の目的(動機・原因)の正当性、行動に至る経緯、特に相手側(政府・当局)の責任、行動の必然性、本件各争議行為の規模、態様、その相当性、教育に及ぼした影響に比し、本件各懲戒処分は甚だしく苛酷であり、処分の意図も報復的処分をすることに根ざした不公正なものであるばかりか、その処分に不均衡、不公平が存し、処分に伴う昇給延伸による経済的損失など本件各懲戒処分による不利益も多大であるなどの事情があるので、本件各懲戒処分は処分権の濫用というほかはなく、いずれも違法として取消しを免れない。

二  結論

よって、本件各懲戒処分はいずれも取り消されるべきである。

(被控訴人らの主張に対する控訴人の認否)

被控訴人らの主張事実中、控訴人が本件各懲戒処分の各処分基準について控訴人の主張二2のとおり述べていること、北海道人事委員会が裁決により別紙二の(一)記載の被控訴人らにつき、五・一三統一行動に参加したことを理由として控訴人が同被控訴人らに対してした各懲戒処分をいずれも取り消し(確定)たことは認めるがその余は争う。

(原判決の事実摘示引用)

原判決添付 原告一覧表(一)、(二)、同原告処分一覧表(一)、(二)及び同第一ないし第三目録(いずれも別紙三参照)を引用する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一項(当事者)の事実のうち、1(一)及び2は当事者間に争いがなく、1(二)は控訴人が明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、同第二項(本件各懲戒処分)の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各懲戒処分の処分理由

1  被控訴人らによる争議行為の具体的内容

この事実は当事者間に争いがない。

2  被控訴人らの行為の地公法三七条一項該当性

右1の事実によれば、原判決添付第一、第二目録各記載の被控訴人らによる一斉の休暇届提出による職務放棄は、外形上は有給休暇請求権の行使の形式を備えていても、その実質は有給休暇請求権の行使に名を借りた同盟罷業にほかならなく、その有給休暇請求権の行使は、労基法三九条所定の効力を有しないものであって、同被控訴人らの当該所為は地公法三七条一項前段に該当するものというべきであり、同様に、原判決添付第三目録記載の被控訴人らの当該所為は同項後段に該当するというべきである。

三  本件各懲戒処分の適否

1  地公法三七条一項の合憲性について

(一)  憲法二八条のいわゆる労働基本権の保障は、憲法二五条の生存権の保障を基本理念とし、憲法二七条の勤労の権利及び勤労の条件に関する基準の法定の保障と相まって、勤労者の経済的地位の向上を目的としているのであって、このような労働基本権の根本精神に即して考えると、地方公務員も、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において、一般の勤労者と異なるところはないから、憲法二八条の勤労者として同条による労働基本権の保障を受けるというべきである。しかし、地方公務員は、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は、公務の遂行、すなわち、直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであって、地方公務員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないし国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがある点において、国家公務員の場合と選ぶところはない。そして、地方公務員の勤務条件が、法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によって定められ、また、その給与が地方公共団体の税収等の財源によってまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されるべきものである点においても、地方公務員は国家公務員と同様の立場に置かれており、したがって、この場合には、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権も、団体交渉の裏づけとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえって議会における民主的な手続によってされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれがあるのである。それゆえ、地方公務員の労働基本権は、地方公務員を含む地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のために、これと調和するように制限されることも、やむを得ないところといわなければならない。他方、地方公務員の労働基本権が地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のために制約を受ける場合においても、その生存権保障の趣旨から、その間に均衡が保たれる必要があり、したがって右制約に見合う代償措置が講じられなければならないところ、国家公務員については、その労働基本権が国民全体の共同利益のために制約を受ける場合、その制約に見合う代償措置として、国公法は、身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、更に中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている(国公法三条)。殊に国家公務員は、法律によって定められる給与準則に基づいて給与を受け(同法六三条、六六条、なお六七条)、その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される(同法六四条、六五条)等、いわゆる法定された勤務条件を享有しているのであって、人事院は、国家公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会及び内閣に対し勧告又は報告を義務づけられている(同法二八条)。そして、国家公務員たる職員は、個別的に又は職員団体を通じて俸給、給料その他の勤務条件に関し、人事院に対しいわゆる行政措置要求をし(同法八六条)、あるいはまた、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対し審査請求をする途も開かれている(同法九〇条)のである。このように、国家公務員は、労働基本権に対する制限の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているのであり、この点を地方公務員の場合についてみると、地公法上、地方公務員にもまた国家公務員の場合とほぼ同様な勤務条件に関する利益を保障する定めがされている(殊に給与については、地公法二四条ないし二六条など)ほか、人事院制度に対応するものとして、これと類似の性格を持ち、かつ、これと同様の、又はこれに近い職務権限を有する人事委員会又は公平委員会の制度(同法七条ないし一二条)が設けられているのである。もっとも、詳細に両者を比較検討すると、人事委員会又は公平委員会、特に後者は、その構成及び職務権限上、地方公務員の勤務条件に関する利益の保護のための機構として、必ずしも常に人事院の場合ほど効果的な機能を実際に発揮し得るものと認められるかどうかにつき問題がないではないけれども、なお中立的な第三者的立場から公務員の勤務条件に関する利益を保障するための機構としての基本的構造を持ち、かつ、必要な職務権限を与えられている(同法二六条、四七条、五〇条)点においては、人事院制度と本質的に異なるところはなく、その点において、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認めることができるのである。

右の次第であるから、地公法三七条一項前段において地方公務員の争議行為等を禁止し、かつ、同項後段が何人を問わずそれらの行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為をすることを禁止したとしても、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためのやむを得ない措置として、それ自体としては憲法二八条に違反するものではないといわなければならない(最高裁昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁、最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁参照。なお、最高裁昭和五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁参照)。

(二)(1)  これに対し、被控訴人らは、憲法二八条により保障される争議権が制限、特に争議行為が禁止されるのは、争議行為が生命、身体の安全、健康にかかわる国民の利益に直ちに重大な支障をもたらす危険が明白かつ現実に存し、しかも争議行為の禁止以外の他の制限手段では右危険を避けることができないという場合に限定されるべきところ、地公法三七条一項が地方公務員につき全面一律に争議行為を禁止しているのは憲法二八条に違反すると主張する。

右主張は、かつていわゆる全逓中郵事件判決(最高裁昭和四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁参照)等に示されたいわゆる限定解釈論を前提とするものであるが、当裁判所としては、前記三1(一)のとおり地方公務員につき争議行為を全面一律に禁止した地公法三七条一項は、あえて限定的に解するまでもなく憲法二八条に違反しないものと判断するものであって、被控訴人らの右主張は採用の限りではない。

(2) 被控訴人らは憲法二八条により保障された争議権の制限が認められるためには右制限に見合う代償措置が講じられるべきところ、右代償措置たるためには、ILO結社の自由委員会が定立した基準としての、①公平な第三者機関としての実質を持ち、②公務員労働者がその機関の調停、仲裁手続に当事者として参加することができ、③その裁定結果が労使双方に対して拘束力を有することの三要件を満たすべきであるが、現行の人事院、人事委員会及び公平委員会制度は、右のいずれの要件をも充足しておらず、労働基本権の制限に見合う代償措置としての要件を具備していないので、地公法三七条一項が地方公務員につき争議行為を全面一律に禁止することは憲法二八条に違反すると主張する。

《証拠省略》によれば、ILO結社の自由委員会の各報告やいわゆるドライヤー報告においては、労働基本権の制限に見合う代償措置としての要件につき被控訴人ら主張の三つの基準が掲げられ、これにかなうべきことを要する旨の見解が述べられていることが認められる(他に、右認定に反する証拠はない。)ところであって、労働基本権制限の代償措置が右にいう代償措置たるための要件を備えることは、生存権保障の趣旨からみて、公務員の経済的地位の向上によりよく寄与するであろうことは容易に推認されるところであるが、我が憲法下の法解釈において、ILO結社の自由委員会の各報告等に述べられている右見解に拘束されるべき根拠となる条約(我が国が批准したILO第八七号条約、第九八号条約は右根拠となるものではない。)等は存しないし、また右三要件を具備したものを制度として採用しない限り、現行の人事院、人事委員会及び公平委員会制度等の代償措置が労働基本権の制限に見合う代償措置としての要件を欠いているとみるべき合理的理由は存しない。前記三1(一)のとおり現行の国公法ないし地公法の下における代償措置は公務員の労働基本権制限の代償措置としての一般的要件を満たしていると認められるから、地公法三七条一項が地方公務員につき争議行為を全面一律に禁止したとしても憲法二八条に違反するとはいえない。

右の代償措置たるために要求されるべき一般的要件を超えて、公務員の経済的地位の向上のため更にいかにこれを徹底せしめるかは、国会が政治的、社会的、その他諸般の事情(代償措置としての要件についてのILO結社の自由委員会の報告等に示された前記の見解もこの一つの事情とはなる。)をしんしゃくして、合理的配慮により立法をもって定めるべき労働政策上の問題に帰するといえる。

したがって、被控訴人らの前記主張も採用することができない。

2  教員による争議行為の違法性について

被控訴人らは、公立学校の教員による争議行為につき地公法三七条一項を適用することは憲法二八条に違反すると主張する。

既に三1(一)で述べたとおり地公法三七条一項は地方公務員につき争議行為を全面一律に禁止したものであり、ひとり公立学校の教員による争議行為のみを例外とするものではないのであって、このように解しても、右規定が憲法二八条に違反するものではない。したがって、地公法三七条一項につきいわゆる限定解釈を前提とする被控訴人らの右主張は子細に検討するまでもなく失当として採用することができない。しかも、公立学校の教員による争議行為は、その地位の特殊性と職務の公共性(公立学校の教員は、教育基本法一条所定の目的実現のために、次代を担う児童、生徒に対する教育という、単なる労務の提供を超えた重大な公共的使命のある職務に従事するものであって(教育基本法六条一項、二項本文参照)、その職務はその公共性等において、他の公務員のそれとは異なる独特の貴重なものがあるというべきである。)と到底相容れないばかりか、教員が一たび争議行為に出た場合は教育活動を中心とする職務の停廃をもたらし、その結果、児童、生徒のみならず、社会一般に対し重大な混乱等の大きな影響を生ぜしめ、あるいはこれを生ぜしめるおそれがある(こうしたことからみて、教員による争議行為は、いかなる観点からいっても、教育的価値を有すると評価することはできない。)のであって、教員による争議行為が地公法三七条一項により禁止されるとすることに格別妨げとなるものはない。教育は、単なる断片的な知識の切り売りにとどまるものではなく、人間の育成と文化の創造を目的として、教師と児童、生徒との人間的結びつきの中で、授業を通して互いに対面して営まれるべき創造的な実践であって、児童、生徒の心身の発達、理解度等に即応して、教師と児童、生徒との時々刻々の触発を積み重ねて日々発展形成されるものであるから、授業時間の欠落を他の時間をもって補充するということは本来的に教育に親しまないものである。もっとも、《証拠省略》によれば、北海道内の各公立学校は各年度に先立ち、各学校ごとにその実情や地域的特性に応じた年間教育計画(カリキュラム)を作成しているが、その作成に当たっては学校教育法施行規則所定の授業時間数が確保されており、また、各学校はかかるカリキュラムにのっとって授業計画を立てる等して種々の教育活動を行っていること、そして右カリキュラムや授業計画といえども疾病や天災等に基づく臨時休校、担当教員の休暇、出張等の事態があることからみても明らかなとおり不可変更的なものではなく、臨機応変に適当な修正、変更が可能であって、弾力的な性格を有するものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。右事実によれば、本件各争議行為は回数が年一回であり、職場放棄の時間も午後半日又は一時間である(以上の事実は当事者間に争いがない。)ことから、右争議行為によって生じた授業の一時的停廃は後日補完可能であって、それゆえ、カリキュラム等の大綱に大きな影響を与えることはないと推認することができるが、右の補完可能性も、授業の進度の回復という限定された局面において認められるにすぎないというべきであって、それを超えた教育における教師と児童、生徒との精神的な触れ合いとそれに基づく創造的実践による人間の育成という重要な側面においては補完が不可能であるともいえるから、授業の進度における補完可能性を過大に強調して、これを根拠に教員による争議行為が許容されるべきであるとの論には左たんすることができない。その他のこの点についての被控訴人らの主張についてみるに、仮に被控訴人ら主張のとおりに教員の勤務条件が充実するときにはいずれ教育の充実、向上に結びつくということはいい得るとしても、それだからといって将来の教育の充実、向上のために現時点(本件各争議行為の時点)における教育を犠牲にしたり、他に悪影響を与えたりすることを肯認することは許されないものであり、したがって、教員による争議行為が許容されるべきであるとはいえないし、また《証拠省略》によれば、ILO・ユネスコの「教師の地位に関する勧告」において教員に一定の条件の下に争議行為が許容されるべきとの見解が表明されていることが認められるが、右勧告は拘束力を有するものではなく、我が国の憲法下での地公法三七条一項の解釈に直接影響を及ぼすものではないと解されるなど、被控訴人のこの点の主張は、いずれも合理的理由を欠くものであって失当である。

3  本件各争議行為の違法性について

被控訴人らは、代償措置は労働基本権の制限に見合うべきものとして十分に機能していることが必要であるところ、人事院、人事委員会及び公平委員会が代償措置として本来の機能を発揮していない場合には、公務員が人事院勧告の完全実施という要求を掲げて争議行為を行っても、その手段、態様等が相当性の範囲を逸脱しない限りは、右争議行為は、憲法二八条により保障された争議権の行使であるから、右争議行為に参加等したことを理由に懲戒処分を行うことは憲法二八条に違反すると主張する。

争議権制限の代償措置は、争議行為を禁止されている公務員の利益を現実的に保障しようとする制度であり、公務員の争議行為の禁止が違憲とされないための論理的な前提というべきものであるが、前記三1(一)のとおり現行の代償措置は、制度上地方公務員の労働基本権の制限に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認めることができるから、地公法三七条一項が地方公務員につき争議行為を全面一律に禁止したとしても、直ちに憲法二八条に違反するものではない。もっとも、前記代償措置は、その制度上、一般的要件を満たしているのみならず、実際上も、労働基本権制限の代償措置として十分かつ完全とはいえないとしても、少なくとも相応の機能を果たしていることが必要であると解すべきであるから将来への明確な展望を欠いたまま、人事院勧告が実施されないなど、前記の代償措置として明らかに不十分にしか機能を果たしていないような場合には、公務員が代償措置としての機能の不十分なところの回復を目的として争議行為に参加等したとしても、これを直ちに違法視することはできず、かえって、右争議行為の参加者等に対し、地公法三七条一項を適用して懲戒処分をすることが憲法二八条に違反することとなる場合もあり得ることは否定し得ないところである。

本件各争議行為がいずれも人事院勧告の完全実施とそのための地方財源の確保を主目的とするものであることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件各争議行為がなされた昭和四一年ないし同四三年における国家公務員の給与に関する人事院勧告は、政府において、その実施時期の点につき、勧告どおりには実施せず、昭和四一年は五月一日の勧告を九月一日に、同四二年は五月一日の勧告を八月一日に、同四三年は五月一日の勧告を七月一日(もっとも、政府原案では八月一日実施とすることとしたが、国会で七月一日実施に修正されたものである。)に実施したものであるが、いずれも給与引上げ率についてはおおむね勧告どおり実施したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、前記三1(一)のとおり、公務員について、争議権制限の代償措置として講じられているのは、単に人事院、人事委員会及び公平委員会による給与引上げの勧告の制度にはとどまらず、国公法ないし地公法上、身分、任免、服務その他の勤務条件について公務員の利益を保障する定めがなされていることをも含むものであり(これにより被控訴人ら公務員は、勤務条件の法定による利益を享受しているものである。)、かつ、右の人事院等による給与引上げの勧告は、本件各争議行為当時、右認定のとおり実施時期の点において二ないし四か月遅れることがあったものの、引上げ率についてはおおむね勧告に従い、その内容どおり実施されてきたのであって、これらの事実を総合するとき、本件各争議行為当時、現行の代償措置は労働基本権の制限に見合う代償措置として一般的に整備され、かつ、代償措置として十分かつ完全とはいえないが、相応の機能を果たしていたといい得るのである。したがって、本件各争議行為が人事院勧告の完全実施とそのための地方財源の確保を主目的とし、その形態が職務放棄にとどまっていたからといって、そのためにその争議行為の違法性が阻却されるものではなく、本件各争議行為が憲法二八条により保障された争議権の行使であるということはできないので、これに対し、地公法三七条一項を適用して本件各懲戒処分をしたとしても、憲法二八条に違反するということはできない。

4  本件各懲戒処分の裁量権の濫用について

(一)  被控訴人らは、本件各懲戒処分は懲戒権の範囲を逸脱し、あるいは処分権を濫用したもので違法であるので取り消されるべきであると主張する。

ところで、公務員に対する懲戒処分は、単なる労使関係の見地においてではなく、地方住民全体ないし国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法(昭和四〇年法律第六九号による改正後のもの)は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(国公法七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(同法二七条)及び不利益取扱いの禁止(同法一〇八条の七)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。このことは、地公法にあっても同様である(地公法二七条一項、一三条、五六条参照)。したがって、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、当該組織の事情に通暁した懲戒権者の裁量に任せるのでなければ、到底、適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それゆえ、公務員につき、国公法又は地公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

この理は、公立学校の教職員に対して行われる懲戒処分についての司法審査においても何ら異なるものではない(教員につき、最高裁昭和五三年(行ツ)第二号、同五九年一二月一八日第三小法廷判決参照)。

そこで、以下本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものと認められるかどうかについて検討する。

(二)  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 北教組は、北海道内の公立学校の教職員をもって組織する地公法五二条に基づく職員団体であって、日教組に加盟している(日教組加盟の事実は当事者間に争いがない。)。

昭和三五年に、日教組、全日本自治団体労働組合(自治労)等による国家公務員及び地方公務員の全国の共同闘争組織として公務員共闘が結成され、公務員共闘は、以後毎年賃金闘争を展開していった。

(2) 被控訴人らは、本件各争議行為当時、賃金水準等の生活実態につき満足すべきものではないとの認識に立って、北教組の組合員として(被控訴人らがいずれも北教組の組合員であることは当事者間に争いがない。)、日教組、北教組の下、公務員共闘の統一要求として昭和四一年は基本賃金の一律七〇〇〇円、同四二年は同じく八〇〇〇円、同四三年は同じく一万円以上の各引上げ等を要求したが、これに対し、人事院は国家公務員の給与改訂につき、政府に対し、昭和四一年八月一二日平均六・九パーセント(二八二〇円)、同四二年八月一五日平均七・九パーセント(三五二〇円)、同四三年八月一六日平均八・〇パーセント(三九七三円)、実施時期をいずれも五月一日とする給与引上げの勧告をそれぞれした。

(3) ところで、人事院の勧告は国家公務員に関するものであり、地方公務員である被控訴人ら本件各争議行為の参加者に関するものではない。地方公務員の勤務条件については、地公法八条一項二号において、人事委員会が勤務条件、厚生福利制度その他職員に関する制度について絶えず研究を行い、その成果を地方公共団体の議会若しくは長又は任命権者に提出し、また、同法八条二項一号において、公平委員会が職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、必要な措置を執ることとそれぞれ定められているところである。しかしながら、その実情は、自治省の強力な行政指導により地方公務員の給与制度も国家公務員に準ずべきであるとされており、右人事院勧告とその実施状況が地方公務員の勤務条件の改善を事実上規制しているのである。特に被控訴人らのごとき教育公務員においては、教育公務員特例法二五条の五において公立学校の教育公務員の給与の種類及びその額は、当分の間、国立学校の教育公務員の給与の種類及び額を基準として定めるものとされ、法的にも人事院勧告及びその実施状況が被控訴人らの勤務条件の規制に結びついていた。

(4) 被控訴人らは、人事院勧告はそもそも春闘相場を反映しない低額のものであるとして、その勧告内容自体について不満を抱いていた。しかも、三公社五現業の職員は昭和三二年以来、仲裁裁定が内容、実施時期とも裁定どおり実施されているのに対し、ひとり非現業の国家公務員及び地方公務員のみ、人事院等による勧告が実施時期の点において完全に実施されないことに強い不満を持っていた。

(5) そこで、北教組は、人事院勧告の完全実施とそのための地方財源の確保を重点目標として実力行使をするという公務員共闘、日教組の休暇闘争方針に基づいて、昭和四一年にあっては、同年九月一六日、一七日の北教組第四九回定期大会において組合員七〇・三八パーセントの賛成により、同四二年にあっては、同年九月二二日、二三日の北教組第五一回定期大会において組合員六三・〇一パーセントの賛成により、同四三年にあっては、前記争いのない控訴人の主張一3(二)(3)のとおり同年九月一四日の北教組第五四回臨時大会において組合員多数の賛成により、それぞれ昭和四一年一〇月二一日、同四二年一〇月二六日、同四三年一〇月八日に本件各争議行為に入ることを決めた。

(6) 控訴人は、文部省初等中等局長の通達を受けて、北教組が公務員共闘、日教組の統一実力行使として本件各争議行為に入ることに対し、教育活動が阻害される結果となることを痛く懸念し、その都度、教育長通達により各市町村教育委員会(以下「市町村教委」という。)等に対し、教職員が違法な争議行為に参加等することのないよう万全の措置を取るよう指示し、市町村立学校の教職員の関係では、これを受けて各市町村教委において校長等を介して教職員に対し争議行為に参加等することのないよう強く説得等した。そして、控訴人等は、本件各争議行為の都度、教職員が争議行為に参加等して非違を犯した場合には、法の規定に照らして厳正な措置を取る旨の警告を繰り返し発した。

(7) しかしながら、被控訴人らは、控訴人等の右警告を無視して、前記二1のとおり(控訴人の主張一参照)本件各争議行為に参加等した。

一〇・二一争議行為は、人事院勧告の完全実施等を求めて公務員共闘の統一実力行使として初めてなされたもので、右の一環として北教組によりなされた右争議行為は、全道的規模によりなされた大規模のものであって、これが更に昭和四二年の一〇・二六争議行為、同四三年の一〇・八争議行為へと拡大発展していった。

なお、本件各争議行為の参加者数は次のとおりである(もっとも、北教組の調査によれば、北教組組合員の参加者数は更にこれを上回るところである。)。

イ 一〇・二一争議行為当時における北海道内の公立学校に勤務する教職員(校長を除く。)は、五万一三五二人(小学校二万三一〇〇人、中学校一万六〇六六人、高等学校一万一四三一人、特殊学校七五五人)であり、そのうち、右争議行為の参加者は原判決添付第一目録記載の被控訴人らを含め合計一万一四九八人で、その内訳は北教組組合員九五四五人(小・中学校九一五一人、高等学校三二七人、特殊学校六七人)、高教組組合員一九五三人であった。

ロ 一〇・二六争議行為当時における北海道内の公立学校に勤務する教職員(校長を除く。)は五万一九三〇人(小学校二万三三九八人、中学校一万六二四八人、高等学校一万一五〇〇人、特殊学校七八四人)であり、そのうち、右争議行為の参加者は、原判決添付第二目録記載の被控訴人らを含め合計一万四〇六四人で、その内訳は北教組組合員一万三五二六人(小・中学校一万三一八四人、高等学校二二三人、特殊学校一一九人)、高教組組合員五三八人であった。

ハ 一〇・八争議行為当時における北海道内の公立学校に勤務する教職員(管理職員を除く。)は合計四万九三〇九人(小学校二万二二三八人、中学校一万四九七三人、高等学校一万一三二四人、特殊学校七七四人)であり、そのうち、参加者は、合計一万五八六九人で、その内訳は北教組組合員一万四四九八人(小・中学校一万四〇四七人、高等学校一六四一人、特殊学校一八一人)、高教組組合員一三七一人であった。

本件各争議行為は、北海道内の公立学校の多数の児童、生徒に対し、一〇・二一争議行為においては午後半日、一〇・二六及び一〇・八各争議行為においては各一時間の授業時間の空白を与えた。

(8) なお、控訴人及び市町村教委は一般に、人事院勧告の完全実施を目的とするものであっても、これを要求して教職員が争議行為に参加等することに対しては違法であるとの厳しい見方をしていたが、同時に、控訴人及び市町村教委は、本件各争議行為当時、人事院勧告の完全実施を希望し、市町村教委は控訴人に対し人事院勧告が完全実施されるよう控訴人において努力することを要望し、控訴人はこうした要望を受けて、更に文部省を経由する等して政府等に対し、右実施方を要望した。また、昭和三九年以降、同四五年に人事院勧告が完全実施されるに至るまでの間、ほぼ毎年、衆議院・参議院両院の各内閣委員会等において、政府による人事院勧告の完全実施への努力ないしはその実施自体を求める旨の決議がなされていた。また、新聞論調においては、政府が人事院勧告を完全実施しないことを非難し、公務員が右実施を求めて争議行為に参加等することに対し、その目的につき同情を示すものがあった。

(9) しかしながら、政府は、右各争議行為より先、それぞれ、昭和四一年一〇月一四日、同四二年一〇月二〇日、同四三年八月三〇日の閣議決定により、前記(2)の内容の人事院勧告に対し、昭和四一年ないし同四三年のいずれも給与引上げ率についてはおおむね勧告どおり実施することとしたが、その実施時期については、いずれの年も五月一日実施の勧告を受けながら、これを右勧告のとおりには実施に移さなかった。この点につき、政府からは、人事院勧告どおりに五月一日実施ができないことについて合理的理由や右実施に向けての具体的展望について説明はなかった。しかしながら、それでも、実施時期について、政府は、昭和四一年においては九月一日、同四二年、同四三年においてはいずれも八月一日(もっとも、昭和四三年については八月一日実施の政府原案が国会により七月一日実施に修正された。)とすることとしており、徐々にではあるが、改善されてきていた。なお、その後、政府は、昭和四四年に六月一日実施とし、同四五年に勧告どおり五月一日実施として、同年に至って、人事院勧告は、内容、実施時期とも勧告どおり完全実施されるに至った。

(10) 控訴人は一〇・二一争議行為により教育活動が著しく阻害されたとして、右争議行為の参加者等に対し懲戒処分をする方針の下、控訴人内部に課長以上全員及び石狩教育局長らをもって組織する賞罰委員会を設置し、同委員会において処分基準案を検討し、教育長の指示を仰ぎ、更に教育委員会による審議を経た上、最終的に処分基準を策定するとの手順で臨むこととしたが、市町村立学校の教職員につき懲戒処分をするためには、市町村教委の内申が必要である(地方教育行政の組織及び運営に関する法律三八条参照)ところ、一部の市町村教委においては、処分につき消極的な意見もあったので、控訴人は前記手順により作業を進めるに際し、その出先機関である各教育局を介して、市町村教委の意向をも聴取して処分方針について事実上調整を図りつつ、処分基準を確定していった。そして、結局、控訴人は、一〇・二一争議行為につき、これに参加したのみの者は原則として戒告、五・一三統一行動に参加するため学校長の承認を得ないで勤務場所を離脱したことにより訓告、あるいは懲戒処分を受けたにもかかわらず、再び一〇・二一争議行為に参加した者は原則として停職一月、管理職の地位(具体的には教頭)にありながら、一〇・二一争議行為に参加した者は停職三月との基本方針で臨むこととしたが、市町村教委から、これらの者のうち、反省書を提出する等して事後に反省の情を示した者については、処分を軽減等すべきであるとの意見が出されたので、控訴人はこれを取り入れて、戒告に当たる者は懲戒処分はしないで、市町村教委による訓告にとどめ、停職一月に当たる者は減給六月とすることとして、一〇・二一争議行為の参加者に対する処分に臨んだ。その後、市町村教委の側から右処分基準に基づく処分が重いとの批判が出され、右基準の下では処分の内申をすることができないとの意見もあったので、控訴人は一〇・二六争議行為につき、前記手順の下、処分基準を策定するに際し、市町村教委の右意見を取り入れて、一〇・二六争議行為につき、これに参加したのみの者は原則として処分をしないこととして、市町村教委による訓告にとどめ、一〇・二一争議行為に参加して訓告若しくは戒告を受けたにもかかわらず、再び一〇・二六争議行為に参加した者は戒告、一〇・二一争議行為に参加して減給以上の処分を受けたにもかかわらず、再び一〇・二六争議行為に参加した者は減給六月、管理職の地位(具体的には教頭)にありながら、一〇・二六争議行為に参加した者は停職三月とするとの基準で処分に臨んだ。その後、一〇・八争議行為の処分基準の策定に際し、控訴人内部及び多数の市町村教委から争議行為への一般参加者だけを処分するのではなく、争議行為の実施につき指導的役割を果たした北教組の執行部等の幹部の責任を追求すべきであるとの意見が強く出されたので、こうした意見を考慮の上、控訴人は一〇・八争議行為については一般参加者は処分をせず、幹部のみ処分をするとの方針の下、北教組における地位、役割等に応じて分類した上、一〇・八争議行為につき、北教組中央執行委員中三役は免職、その余の中央執行委員は停職六月又は同三月(なお、停職六月と同三月は、北教組本部における部長格か、副部長格(特殊学校部、婦人部の各部長は、その部の専門部としての特性から副部長に準じるものとする。)かの区分による。)、同組合支部役員は減給六月とするとの基準を策定して処分に臨んだ(本件各懲戒処分の処分基準が以上に記載のとおりであることは、一〇・八争議行為についての停職六月と同三月の区分の基準の点を除いて、被控訴人らにおいて明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。)。

(11) そして、控訴人は、右(10)の処分基準に基づき、本件各争議行為に参加等したことを理由に、市町村立学校の教職員については市町村教委からの内申を得た上、原判決添付原告一覧表(一)、(二)記載の被控訴人らに対し、原判決添付原告処分一覧表(一)、(二)記載の本件各懲戒処分をした(以上の事実のうち、控訴人が右被控訴人らに対し本件各懲戒処分をしたことは当事者間に争いがない。)。

本件各争議行為につき、控訴人が北教組組合員に対してした懲戒処分の概要は次のとおりであって、被処分者数は右争議行為と同種、同目的の争議行為に参加した他の公務員組合の組合員のそれに比較して多数に上るものであった。

イ 一〇・二一争議行為

被処分者合計二七三六人(うち停職三月三人、同一月一八二人、減給六月一九八人、戒告二三五三人)

ロ 一〇・二六争議行為

被処分者合計四〇六六人(うち停職三月三人、減給六月一七八人、戒告三八八五人)

ハ 一〇・八争議行為

被処分者合計七一人(うち免職三人、停職六月六人、同三月七人、減給六月五五人)

なお、市町村教委の中には、本件各争議行為に参加等した市町村立学校の教職員の処分の内申につき右提出をちゅうちょするものがあったので、控訴人は前記(10)のとおり処分基準を策定するに当たり、市町村教委との事前調整をした上、処分についての理解と内申の提出を求めたが、それでも一部の市町村教委においては内申をしようとしなかったので、控訴人は内申をするよう事実上勧告し、あるいは地方教育行政の組織及び運営に関する法律五二条に基づき内申につき措置要求をした。しかしながら、夕張市教委等ごく一部の市町村教委は、内申に強く反対する北教組支部との関係の悪化、処分による教育現場の混乱等をおそれるなどして内申をしなかった。そのため、控訴人は本件各争議行為に参加等しながら市町村教委から内申を得ることができなかった者については懲戒処分をすることを断念した(なお、控訴人は夕張市教委から「教職員の懲戒処分について(内申)」と題する書面が提出されたことを受けて一〇・二一争議行為に参加した夕張市教委関係教職員四一二名に対し各懲戒処分をしたが、北海道人事委員会は、右内申は、その実質において処分を求めるものではないとして、右懲戒処分には処分の内申を欠くという手続上の瑕疵を理由に昭和四七年二月九日右各懲戒処分をいずれも取り消した。)。これに対し、控訴人は、市町村教委から内申を得た者については、前記の各処分基準に従い本件各懲戒処分をした(なお、一〇・二一争議行為につき、反省書を提出した者が極めて多数に上った(そのうちには、市町村教委、校長等が教職員が処分を受けることにならないようにとの配慮から、反省書の提出を積極的に働きかける等したため、やむなくこれを提出した者もあった。)ので、その結果、一〇・二一争議行為の参加者のうち相当数の者が懲戒処分を受けないこととなった。)。

(12) 市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の給与に関する条例(昭和二七年九月一〇日北海道条例(以下「北海道条例」を単に「条例」という。)第七九号)二条二項、北海道学校職員の給与に関する条例(昭和二七年九月一〇日条例第七八号)六条五項本文によれば、「学校職員が現に受けている号俸を受けるに至った時から十二月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは、一号俸上位の号俸に昇給させることができる。」とされているが、控訴人教育長名の「懲戒処分を受ける学校職員の定期昇給の実施要領について(通達)」(三九教職秘第九〇号、昭和三九年四月三〇日)と題する通達により学校職員が停職、減給又は戒告の処分を受けた場合には、勤務成績の良好であることの証明を得られないものとして最短昇給期間に昇給させず、少なくとも三か月以上の昇給延伸の措置による不利益を伴うこととされているが、右昇給延伸措置による不利益は、給与のみならず、これを基礎として算定される期末手当、勤勉手当等に及び、それは当該年度のみならず、次年度以降も毎年生じ、更には退職手当、退職年金にまで影響するところであって、停職、減給及び戒告の各懲戒処分により、右処分を受けた被控訴人らは、その直接的効果のほか派生的効果として右の昇給延伸措置による不利益を受けているところである(なお、昇給延伸措置による不利益を金銭的に見積ると、被控訴人らの計算では、例えば二等級二三号俸の四〇才になる教師が戒告により三か月の昇給延伸になったものとすると、同人は年間金三万五六四四円、六〇才までに金七一万二八八〇円の格差を生ずることになる。もっとも、控訴人の計算では右金額より相当低額となる。)。以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)(1)  ところで、被控訴人らは、公務員、とりわけ身分の保障されるべき教育公務員につき争議行為への参加等を理由として懲戒処分をするに当たっては、その際の不公正な態度が更に争議行為を誘発する場合もあり得るので、他の行政裁量以上に事案の特殊事情に十分配慮することが要請され、これについての配慮を怠った場合にはその処分は裁量権の範囲を逸脱したものとして違法となると主張する。

しかしながら、公務員につき懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分をするか、またいかなる懲戒処分を選択するかに当たっては、先にも述べたように、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情が総合的に考慮されるのであって、右の総合的な考慮をするに際し、諸般の事情のうち、どの事情にどの程度の比重を置くかといったことは一定の限度があるとはいえ、懲戒権者の広範な裁量に任されているところであって、この理は教育公務員につき争議行為への参加等を理由として懲戒処分を行う場合においても変わりがないというべきである。したがって、仮に被控訴人らの右主張が公務員、とりわけ教育公務員につき争議行為への参加等を理由として懲戒処分をするに当たっては、他の場合に比して裁量権の行使に法的に格別の制約があるとの趣旨であるとすれば失当である。結局、被控訴人らが本件において配慮すべきであるとする「特殊事情」は、本件各懲戒処分をするに当たって控訴人が考慮を払ったか否かのみによって裁量権の濫用があったかを判断すべきものではなく、本件の一切の事情を総合的に考慮して、本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものと認められるか否かの判断をすべきである。

(2) 次に、被控訴人らは、控訴人が本件各懲戒処分をするに当たって定立した処分基準はそれ自体不公正な内容のものであるばかりか、本件各争議行為ごとに特別の事情もないのにその基準を変更したのであって、このこと自体で裁量権の範囲を逸脱した違法があると主張する。

ところで、控訴人が本件各懲戒処分をするに当たって定立した処分基準は前記三4(二)(10)のとおり(控訴人の主張二2参照)である。

被控訴人ら主張のように右処分基準の内容自体が不公正なものであるか否かは、結局は本件の諸般の事情の下、右基準により本件各懲戒処分をしたことが不公正なるがゆえに裁量権の範囲を逸脱したものとして違法となるか否かの問題に帰するので、この点は後に(4)において詳述する。

そこで、処分基準の定立、変更自体が裁量権の濫用に当たるか否かについて検討するに、確かに右各処分基準はこれを相互に比較した場合、被控訴人らが「被控訴人らの主張」一2において主張するように必ずしも常に一貫性を有するものとはいえない。しかしながら、懲戒権者は、違法な争議行為への参加者等の処分について、ある年度において厳しい処分をもってこれに臨むか、あるいは緩やかな処分にとどめるか、幹部処分をするか、あるいは一般参加者の処分をするか等は公務員関係の秩序を維持する観点から具体的事案に応じて諸般の事情を総合的に考慮してこれを決すべきであるところ、年度等が異なれば処分により労使関係に変化が生じるなど右事情も当然に異なってくるのであるから、そうした中で、右のいずれの処分を選択するかは懲戒権者の広範な裁量に任されているということができる。したがって、本件各争議行為についての処分基準の定立、変更が年度相互間で形式的にみて一貫性があるとはいえないとしても、そのことから直ちに右処分基準の定立、変更自体、ひいては右処分基準に基づいてなされた本件各懲戒処分が裁量権の濫用であるとはいえないし、そもそも、本件にあっては、前記三4(二)(10)のとおり控訴人において右各処分基準を定立し、又は変更するについてはかなり慎重な手続を経て調査、検討をするなど、それ相当の経緯があったことが認められ、控訴人による前記処分基準の定立、変更には相当の合理性があるといえるものであって、右処分基準の定立、変更をもって、これに基づく本件各懲戒処分に裁量権の濫用があると断ずることはできないというべきである。

(3) また、被控訴人らは、懲戒権者は争議行為への参加等を理由として懲戒処分をするに当たっては争議行為の目的、時間的規模の長短、その影響、程度、争議行為発生に至る経緯やその原因、当該処分のもたらす影響等を十分考慮することが必要であるところ、控訴人は本件各懲戒処分をするに当たってこれを考慮しなかったので、裁量権の行使に違法があると主張する。

しかしながら、本件各懲戒処分に裁量権の濫用があったか否かは被控訴人ら主張の右事情をしんしゃくするほか、前述したその他一切の事情を総合的に判断して客観的になすべきものであって、控訴人が前記処分基準の定立、変更に際し、被控訴人ら主張の右事情を全く考慮しなかったものとは断じ切れないのみならず、右の事情は前述した諸般の事情の一部の要素にすぎず、被控訴人ら主張の前記事情を考慮したか否かのみにより直ちに裁量権の行使の違法の有無を決することはできないというべきである。

(4) したがって、被控訴人らが「被控訴人らの主張」一1ないし3(ただし、同2のうちの処分基準の定立、変更自体についての裁量権の濫用に関する主張部分を除く。)において主張するところは、結局、被控訴人らの「被控訴人らの主張」一4の主張、すなわち本件の諸般の事情の下、控訴人のした本件各懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものといえるか否かに帰するというべきであるから、以下この点について検討するに、前記(二)認定の事実関係を下にすれば、これを次のとおり概括することができる。

(本件各争議行為の目的について)

前記三3のとおり人事院が労働基本権制限の代償措置として、十分かつ完全に、その機能を果たしていたとは認められず、政府がその実施について必ずしも誠実に対応しないため、人事院勧告が完全に実施されていない以上、被控訴人ら公務員が政府に対して最低限の要求として人事院勧告の完全実施を要望することはもっともなことである。その意味において、地方公務員につき、地公法三七条一項により争議行為が禁止されているとはいえ、被控訴人らが人事院勧告の完全実施とそのための地方財源の確保を主目的としてやむなく本件各争議行為に参加等したことは一部無理からぬ面がないとはいえなくもない(現に公務員が右目的を掲げて争議行為に入ることに対し、目的の点については公務員の立場に多方面から理解を示すところであった。)。そして、違法とはいえ、被控訴人ら公務員が昭和四一年以降人事院勧告の完全実施等を求めて争議行為に出たことが、他の諸事情とからみあってのことではあるが、昭和四二年以降の政府の人事院勧告の実施に関する姿勢をより前進せしめるという結果をもたらしたことは否定しえないところである。

しかしながら、現行の人事院、人事委員会及び公平委員会等の代償措置が労働基本権制限の代償措置としての一般的要件を具備したものとして整備され、かつ、右代償措置は既に一〇・二一争議行為の行われた昭和四一年当時にあっても、十分かつ完全とはいえないにしても、相応の機能を果たしており、昭和四二年以降年を重ねるに従ってその機能をより充実していったといい得る状態にあったのであるから、本件各争議行為の目的を被控訴人らに過大に有利に評価するのは相当でないといえる。

(本件各争議行為の規模、態様について)

本件各争議行為は公務員共闘により人事院勧告の完全実施を求める統一実力行使として初めてなされたものであって、それは北海道の教育界にあっても、多数の教職員により高い参加率の下に全道的規模でなされたものである。もっとも、本件各争議行為の時間的規模は、午後半日又は一時間限りの比較的短いもので、その形態は職務放棄にとどまるもので、それ以上に被控訴人らが教育活動を積極的に妨害したり、その他違法な行為に出た等の事実はない。しかしながら、本件各争議行為が職務放棄にとどまったとの点についてみるに、仮にそれ以上に積極的に違法行為に出ることは論外であるし、そもそも地公法三七条一項により禁止される「同盟罷業」とは、職員団体がその主張を貫徹することを目的として、その構成員の一部又は全部が一斉に就労しないことをいうのであって、もともと単なる職務放棄そのものがその要件なのである。したがって、争議行為は集団的実力行使であるが、その集団性のゆえに、参加者個人の行為としての主体的な側面が当然に失われるものではない以上、違法な争議行為に参加して服務上の規律に違反した者が懲戒責任を免れ得ないのは当然であるから、右事情は格別被控訴人らに有利にしんしゃくされるべきものとはいえない。

(本件各争議行為の影響について)

本件各争議行為が全道的規模で、多数の教職員が参加してなされたことにより午後半日又は一時間という比較的短時間とはいえ、その間教師不在のため多数の児童、生徒に対し授業の中断を招いたのはそれ自体重大である。このことは児童、生徒の側からいえば、憲法二六条により保障された教育を受ける権利が被控訴人らの違法行為により不当に侵害されたといえるのである。この点、前記三2のとおり、本件各争議行為の回数は年一回であり、職場放棄の時間も午後半日又は一時間であるので、年間を通してみた場合に、右各争議行為は授業の進度の遅れという面からみる限り、その弾力性ゆえに、カリキュラムの授業計画の大綱にさしたる影響を与えることはないといえるが、そもそも、被控訴人ら教員があえて違法な争議行為に参加等して児童、生徒に対する授業を積極的に放棄しておきながら、その責任を回避するためにカリキュラムや授業計画の弾力的性格を援用するのは右の弾力的性格が認められる本来の趣旨に著しくもとるものといわなければならない(逆にいえば、違法な職務放棄を許容するためにカリキュラムや授業計画の弾力性が認められるものではない。)し、教育は、知識の切り売りに尽きるものではなく、それを超えた教師と児童、生徒との人間的な触れ合いであって、それは日々発展、形成されるものであるので授業時間の欠落を他の時間をもって補充するということは本来的に教育には親しまないものであるから、本件各争議行為がカリキュラム等の大綱に影響を与えるものでないことは余りに強調されるべきではない。これに対し、被控訴人らが本件各争議行為に参加等したことにより児童、生徒が授業による教師との人間的な触れ合いを短時間とはいえ失ったことが重視されるべきであって、このことは後日回復不可能なものである。

しかも、教育に携わることをその職務とする被控訴人らが法に違反し、その職務を放棄してでも、実力で問題を解決しようとの姿勢を示した以上、そのことが児童、生徒に対し、精神的に相当の混乱や動揺を招いたことは容易に推認し得るところであって、これも本件各争議行為が児童、生徒にもたらした深刻な影響の一つである。この点、証人浦野東洋一は、教員の争議行為が児童、生徒の人格形成等に悪影響を及ぼすことはないと断定的に供述するが、同証人は、教員の争議行為が憲法上保障された権利を当然に行使しているものであるとの独自の見解を前提としたものであって、右供述は採用し得ないというべきである。

また、《証拠省略》によれば、本件各争議行為により共和町ないし根室市の住民、とりわけ当該地域の児童、生徒の父兄に対し格段の衝撃を与え、そのため被控訴人ら教職員に対する期待と信頼を著しく損なう結果となったことが認められ(この認定に反する証拠は存しない。)、右事実に徴すれば、本件各争議行為のなされた各地域、ひいては社会一般においても右同様の結果が生じたものと推認することができる(なお、《証拠省略》によれば、児童、生徒の父兄が処分による学校の混乱―これによる教育の一時的停廃―をおそれて処分内申をしないよう市教委に対し陳情したことが認められるが、このことは父兄が被控訴人ら教職員が争議行為に参加等したことについて衝撃を受けた事実を否定するものではないし、その他、前記認定を覆すに足りる証拠はない。)。本件各争議行為については、こうした影響も否定し難いところである。

以上のとおり本件各争議行為の及ぼした影響については質量とも決して軽視できないものがあり、その影響を疾病や天災等による臨時休校、その他の教育的配慮による休校の場合のそれと同列に論じることは、明らかに誤りというべきである。

(控訴人の処分意図、本件各懲戒処分の影響について)

控訴人の被控訴人らに対する本件各懲戒処分は多数の教職員に対してなされたものであるが、これは本件各争議行為が多数の教職員が参加してなされたためであって、被処分者数が多数に上ることから控訴人が北教組ないしその組合員に対して報復を意図して右処分をしたとはいえない。

また、控訴人は本件各懲戒処分をするに際し、一部市町村教委に対し措置要求等をして内申の提出を求めたが、その背景には、前記認定のとおり市町村教委は処分による教育現場の混乱等をおそれて処分の内申にとかく消極的になるとの事情があったからであって、控訴人の右措置も不当とまでもいえず、やむを得ないところであって、このことゆえに控訴人が報復の意図、その他不法な動機に基づいて本件各懲戒処分をしたということはできない。

控訴人が本件各懲戒処分をするに当たり定立した処分基準も、前記三4(二)(10)のとおりの経緯により策定されたものであって、相当の合理性があり、不当なものではない。

また、《証拠省略》によれば、本件各争議行為につき、控訴人により多数の教職員に対し停職処分がなされたが、市町村教委により右停職期間中、一部、代替教員が配置されなかったため一部の学校現場において混乱等が生じたことが認められるが、本件全証拠によるも、控訴人が不法な動機により故意に多数の停職処分を作出せしめたとの事情は認められないので、右処分後右のような混乱が生じたとしてもやむを得ない(逆にいえば、そのような事態を容易に推測し得るのに、あえて違法行為をしたことの責任が問われなければならないのである。)というべきであって(なお、《証拠省略》によれば、一部において、停職処分を受けた教員の停職期間中、児童、生徒が配置された代替教員に直ちになじめず、十分な触れ合いを持つことが困難であったことが認められるが、これも同様やむを得ないところである。)、これを直ちに本件各懲戒処分による影響として、右処分自体の不当性を基礎づける根拠とすることはできない。

(本件各懲戒処分の公平性について)

被控訴人らのうちに、市町村立学校勤務の教職員がいることは当事者間に争いがなく、かかる被控訴人らは市町村立学校職員給与負担法一条ないし二条所定の職員(いわゆる県費負担教職員)に該当するところ、都道府県教育委員会による県費負担教職員に対する懲戒処分は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律三八条により市町村教委の内申をまって行うこととされており、法制上内申なくしては懲戒処分ができない建前になっているのである。したがって、本件各争議行為につき、一部内申のなされなかった争議行為参加者等に対して懲戒処分がなされなかったことは、現行法の下ではやむを得ないものである(もっとも、市町村教委からの内申がない場合に、懲戒処分をすることができないとの解釈が常に正しいかどうかは別個に考察すべき問題ではあるが)。

また、公務員に対する懲戒処分は、職務上の義務違反その他公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため科される制裁であり、当該公務員の右行為の前後における態度など諸般の事情を考慮してなされるべきものであるから一〇・二一争議行為につき反省書を提出するなどして改悛の情を示した者(もっとも、一部には、校長等の積極的な働きかけにより反省書を提出した者がいるが、本件全証拠によるも、それらの者が全くその真意に基づかないで反省書を提出したとの事実は認められない。)についてその処分をするに当たって情状酌量を加えることは当然であって、本件各懲戒処分をするにつき、前記各処分基準はこうした特例を設けながらも全道的に均一に適用されたのであって、控訴人が右基準を恣意的に適用したとの事実はない。

一〇・八争議行為につき、原判決添付第三目録の一記載の被控訴人ら三名が免職処分を受けたが、《証拠省略》によれば、昭和四一年一〇月二一日に他県においてなされた一〇・八争議行為と同種、同目的の争議行為につき七名の者が免職処分を受けたことが認められ、《証拠省略》のうち、右認定に反する部分は採用し難いところである(もっとも、本件全証拠によるも、右処分の対象となった者の役割、行為の具体的内容の詳細は明らかではない。)。また、控訴人が本件各争議行為につき被控訴人ら北教組組合員に対してした懲戒処分の被処分者数が他の公務員組合の組合員に対するのと比較して、多人数に及ぶことは否定し難いところである。しかしながら、そもそも公務員に対する懲戒処分は、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁であって、その処分に当たっては、処分権者は、各地方公共団体の労使関係等三4(一)で前述したような諸般の事情を総合的に考慮して、それぞれ独自に自主的に判断すべきものである。したがって、控訴人が本件各争議行為につき本件各懲戒処分をした結果と、右争議行為と同種、同目的の争議行為についての他県ないし他の公務員組合での処分状況と比較した場合、控訴人のした本件各懲戒処分が他県ないし他の公務員組合での処分に比して被処分者数が多数に上ったり、あるいは処分内容が厳しいものとなっているなどの差異が生じているとしても、このことは処分権者が異なることから、当然予測されるところであって、これをもって一概に非難すべきものではない。

なお、被控訴人らは、一〇・二一、一〇・二六各争議行為についての各処分基準におけるいわゆる「累犯加重」による処分は二重処分禁止の原則に反する不当なものであると主張するが、処分権者が懲戒処分をするに当たり、被処分者の懲戒処分歴の有無を考慮し得ることはもとより当然であって、その結果、過去に懲戒処分等何らかの処分を受けた者がそうでない者より重い懲戒処分を受けることとなっても、このことは何ら合理性を欠くものではないので、前記処分基準は、不当とはいえず、二重に処分をしたことにも当たらないから、この点の被控訴人らの主張は採用し難い。

(本件各懲戒処分に伴う不利益について)

本件各懲戒処分は戒告から免職に及ぶものであるが、懲戒免職処分に公務員関係からその身分を全面的に排除する効果があることはその性質上当然であり、更にその場合、北海道職員等の退職手当に関する条例(昭和二八年一二月二八日条例第一四九号)八条一項一号により退職手当は支給されず、また地方公務員等共済組合法一一一条一項、同法施行令二七条一項二号により長期給付(退職年金など)に一部不利益を生じる(なお、この長期給付に関する不利益は停職についても生じるところである。同令二七条一項三号参照)ことになる。そして、停職及び減給の各懲戒処分それ自体に経済的不利益を伴うことは当初から地公法二九条、北海道職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和二七年七月二三日条例第六一号)三条、四条、市町村立学校職員給与負担法に規定する学校職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和三一年一〇月二六日条例第七一号)二条に明定するところであるのみならず、右の経済的不利益は、その他の法律等(例えば、国家公務員について人事院規則一二―〇、日本国有鉄道の職員について日本国有鉄道法三一条各参照)による停職及び減給の各懲戒処分にも共通してみられる不利益である。また、戒告ないし停職の各懲戒処分に伴う定期昇給についての昇給延伸措置及びその結果生じるその後の期末手当、退職金、退職年金等の額についての不利益は、右各懲戒処分自体の効果、すなわち、その本来的効果ではないのみならず、これらの措置ないし不利益は右各懲戒処分の発令以前から争議行為への参加を理由とすると否とを問わず、懲戒処分を受けた職員全般に等しく適用されている人事制度ないし給与制度上の措置ないし不利益にすぎないのであって、被控訴人ら本件各争議行為の参加者等に対してのみ適用されたものではない。しかも、前記認定のとおり被控訴人らが争議行為を行った場合には厳正な措置を取る旨の警告が繰り返しなされていたのであって、被控訴人らも本件各争議行為に参加等した場合には、右のような不利益等を伴う懲戒処分を受けるかもしれないことは十分に覚悟していたものというべきである。そうすると、少くとも停職以下の本件各懲戒処分に本来的及び派生的不利益が伴うとしても、やむを得ないというべきである。

(5) 以上の諸事情を前提に、控訴人が前記三4(二)(10)の処分基準に基づき、前記三4(二)(11)のとおりした本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められるか否かを検討する。

イ 控訴人は、別紙二の(一)記載の被控訴人らに対し同被控訴人らが五・一三統一行動に参加したことにより懲戒処分を受けたにもかかわらず、再び一〇・二一争議行為に参加した者として別紙二の(一)の処分内容欄記載のとおり停職一月ないし減給六月(この減給六月の処分は、前記の処分基準に従えば本来停職一月になるべきところ、一〇・二一争議行為に参加したことにつき反省書を提出したことにより、前記三4(二)(10)で認定したところに徴し、右被控訴人らに有利な事情としてしんしゃくされて減給六月の軽い処分となったものと推認することができる。)の処分をしたが、北海道人事委員会は昭和五二年一〇月二六日付裁決により控訴人が別紙二の(一)記載の被控訴人らに対し五・一三統一行動への参加を理由としてした懲戒処分をいずれも取り消し(確定)たことは、減給六月の処分の経緯に関する部分を除いていずれも当事者間に争いがなく、右各懲戒処分が前述した処分基準に基づいてなされたことは前記認定のとおりである。

そこで、右裁決による取消し前に右懲戒処分の存在を前提として控訴人が別紙二の(一)記載の被控訴人らに対して、前記処分基準に基づいてした一〇・二一争議行為についての本件各懲戒処分の適否を判断するに、前記裁決によりその理由はともかくその前提となる懲戒処分が取り消された以上、法的にはその処分がさかのぼって存在しなかったものとなるところ、前記各懲戒処分が存在するがゆえに本件各懲戒処分により同被控訴人らに対し、格段に不利益な、重い処分がなされたような場合には、前記の裁決による取消しの効果は、本件各懲戒処分の適否の判断に重大な影響を与え、その結果、右各懲戒処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものとしていずれも違法となるというべきである。けだし法的に前記各懲戒処分が誤ってなされたものとしてさかのぼって存在しなかったものとされる以上、被処分者に本来なされるべき懲戒処分より格段に不利益な、重い処分の存続を認めるのは、正義衡平の観念に著しくもとるものであって、到底妥当とはいえないからである。そうすると、本件において、前記のとおり、右の前提となる各懲戒処分は法的に存在しないものと解すべきであるから、同被控訴人らは一〇・二一争議行為の処分基準によれば戒告処分を受けるか、あるいは反省書を提出すれば懲戒処分を受けない(市町村教委による訓告にとどまる。)ことになったのに、同被控訴人らは、本件において、これより格段に厳しい停職一月又は減給六月の処分を受ける結果となったのである。したがって、控訴人は、結果として一〇・二一争議行為についての処分基準の適用を誤り、同被控訴人らに対し、同一条件下にある他の者(別紙二の(一)記載の被控訴人らの関係で五・一三統一行動についての懲戒処分が存しないこととなった以上、右被控訴人らにとって、一〇・二一争議行為の処分基準の下では一〇・二一争議行為に参加したのみの者が同一条件下にある者となる。この者は前記のとおりせいぜい戒告処分を受けるにすぎず、反省書を提出したときは懲戒処分を免れるのである。)と比較して、著しく均衡を失する重い処分をしたものと評価されるべきであるから、別紙二の(一)記載の被控訴人らが一〇・二一争議行為の関係で受けた本件各懲戒処分は、いずれも社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものとして違法といわざるを得ない。

また、控訴人は、別紙二の(一)記載の被控訴人らに対し前記のとおり一〇・二一争議行為への参加を理由として停職一月の処分をし、更に同被控訴人らのうちの一部の者(《当事者番号省略》計二二名)に対し右被控訴人らが一〇・二六争議行為に参加したことにつき別紙二の(一)の処分内容欄記載のとおり減給六月の処分をしたことは当事者間に争いがないが、前記のとおり控訴人が一〇・二一争議行為につき同被控訴人らに対してした停職一月の処分はいずれも取り消されるべきである(そして、同被控訴人らに対し戒告処分がなされ、あるいは反省書の提出により懲戒処分がなされず、訓告がなされることとなる。)から同被控訴人らは一〇・二六争議行為の前記処分基準によればせいぜい戒告処分にとどまるか、あるいは懲戒処分を免れて、訓告を受けるにすぎないところ、前記のとおり減給六月の本件各懲戒処分を受けたのである。したがって、控訴人は結果として一〇・二六争議行為についての処分基準の適用を誤り、右被控訴人らに対し、同一条件にある者に比して、著しく均衡を失する重い処分をしたものと評価されるべきであるから、別紙二の(一)記載の被控訴人らのうち、前記の計二二名の者が一〇・二六争議行為の関係で受けた本件各懲戒処分も社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したものとしていずれも違法というべきである。

したがって、控訴人が別紙二の(一)記載の被控訴人らに対してした別紙二の(一)の処分内容欄記載の本件各懲戒処分はいずれも取り消されるべきである。

ロ 次に、控訴人が、既にイにおいて述べた別紙二の(一)及び後にハにおいて述べる別紙二の(二)各記載の被控訴人らを除く別紙一記載の被控訴人らに対してした本件各懲戒処分の適否を判断するに、本件各争議行為の目的、その時間的規模、人事院勧告に対する政府の必ずしも誠実とはいえない対応等の事情を考慮するとき、右各懲戒処分は重いとの評価もないではないといえる(現に一〇・二一争議行為に関する処分につき、一部の市町村教委の中にはこうした意見もあった。)が、本件各争議行為の人的規模、その与えた影響、被控訴人らの地位、役割等を重視するとき、控訴人が右各懲戒処分をしたことは酷に過ぎるというほどのものではなく、やむを得ないところであって、右各懲戒処分のいずれも社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したものとまではいえないというべきである。なお、控訴人は、前記三4(二)(10)のとおりの処分基準に基づいて本件各懲戒処分をしたため、一定の基準を満たす限りにおいて画一的、定型的に処分がなされることとなる結果、本件各争議行為に参加して同一の処分を受けた者の間にも、教員である者とそうでない事務職員である者、争議行為参加当時、担当すべき授業があった者とそうでない者など事実関係において差異が存するという事態が生じているが、懲戒処分をするに当たって、諸般の事情のうちどの事情にどの程度の比重を置くかといったことは一定の限度があるとはいえ、懲戒権者の広範な裁量に任されているというべきであるから、控訴人が本件各争議行為への参加等の事実関係を重視して前記三4(二)(10)のとおり処分基準を策定したため、処分に当たり、ある者が教員であるか、そうでない事務職員であるか等の個別事情をしんしゃくしないこととなっても、右処分基準に基づいてなされた本件各懲戒処分が裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものということはできない。その他、右各懲戒処分を裁量権の濫用と認めるに足りる事情は本件証拠上認められない。

ハ 最後に、前記三4(二)(11)のとおり控訴人が一〇・八争議行為につき北教組本部の三役である別紙二の(二)記載の被控訴人ら(ただし、別紙二の(二)記載の当事者番号1の1ないし5の被控訴人らの関係では亡大野直司)に対してなした本件各懲戒免職処分の適否について判断するに、そもそも懲戒権者が懲戒処分を行うに当たり、いかなる懲戒処分を選択するかが懲戒権者の広範な裁量にゆだねられていることは基本的には免職処分たると、停職等他の種類の処分たるとを問わず変わりがないというべきであるが、公務員に対する懲戒免職処分は被処分者を公務員関係から全面的に排除するだけでなく、退職手当や退職年金等についても著しい不利益をもたらすものであって、停職等他の種類の処分に比し格段に厳しい処分であることは明らかであって、このことをも考慮すると、免職処分を選択するに当たっては、停職等他の種類の処分を選択する場合に比して、その広範な裁量権の行使にもおのずから制約が存するというべきである。そこでこうした観点から本件各懲戒免職処分の適否を判断するに、右各懲戒免職処分は一〇・八争議行為のみを処分事由とするところ、本件において、一〇・八争議行為の人的規模、その及ぼした影響、被控訴人らの北教組における地位、右争議行為における役割等の事情のほか、更に一〇・八争議行為の目的、その時間的規模、政府の人事院勧告の実施に関する必ずしも誠実とはいえない対応、一〇・八争議行為において停職処分を受けたにすぎない他の中央執行委員との役割における顕著な差異の不存在(仮に役割において相当な差異が存するとしても、本件全証拠によるもそれは多岐にわたるものであることは認めるに足りない。)等の事情も考慮せざるを得ないところ、こうした事情の下においては、前記被控訴人らに対し、極刑ともいうべき懲戒免職処分をもって臨むことは処分の相当性を失し、酷に過ぎるといい得るのであって、公務員関係の秩序を維持する観点を強調したとしても、右各免職処分は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ないので、いずれも違法として取り消されるべきである。

もっとも、《証拠省略》によれば、訴訟承継前の被控訴人亡大野直司は昭和三六年四月以来北教組中央執行委員長であり、被控訴人越智喜代秋は昭和四〇年四月から同四三年三月まで同書記長、同四三年四月から同副委員長であり、被控訴人池端清一は、昭和四〇年から同中央執行委員(共済担当等)、同四三年四月から同書記長であった者であることが認められ(この認定に反する証拠はない。)、右事実によれば、控訴人は、右被控訴人らにつき、一〇・二一及び一〇・二六の各争議行為における指導的役割(特に訴訟承継前の被控訴人亡大野直司、被控訴人越智喜代秋の両名については北教組三役として在職していたものである。)などをも考慮して本件各懲戒免職処分をしたものと推測されるところ、右被控訴人らがかかる過去の違法な争議行為において指導的役割を果たしたことは、処分をするに当たり考慮されるべき一事情となり得ることはもちろんであるけれども、少なくとも、これらの行為をも直接の処分事由として懲戒処分をなした場合とはおのずからその処分の軽重に差異があるといわざるを得ないところである。しかして、本件各懲戒免職処分は、直接には一〇・八争議行為における指導行為のみを処分事由としているにすぎないから、本件において、一〇・二一及び一〇・二六の各争議行為における同被控訴人らの指導的役割を過大にしんしゃくすることはできなく、右のような見地からみると、右各懲戒免職処分はやはり違法であるとの評価を免れないものである。

四  結論

以上によれば、別紙二の(一)、(二)記載の被控訴人らの本訴請求はいずれも理由があるので認容するのが相当であるが、右被控訴人らを除く別紙一記載の被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却するのが相当である。

よって、原判決が別紙二の(一)、(二)記載の被控訴人らを除く別紙一記載の被控訴人らの本訴請求を認容したのは失当であって、控訴人の本件控訴のうち、同被控訴人らに関する部分は理由があるので、原判決中右被控訴人らに関する部分を取り消した上、同被控訴人らの請求をいずれも棄却し、原判決がその余の被控訴人ら(別紙二の(一)、(二)記載の被控訴人ら)の請求を認容したのは相当であるから、控訴人の本件控訴のうち、同被控訴人らに関する部分を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条及び九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奈良次郎 裁判官 松原直幹 裁判官 中路義彦)

<以下省略>

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